新たなエネルギー・気候変動対策シナリオが示す、パリ協定目標達成のため軌道に乗る道筋

ブルームバーグ エル・ピーのプレスリリース

【ロンドン、2022年11 月30日】 調査会社ブルームバーグNEF(BNEF)が発表した調査レポート「長期エネルギー見通し(NEO):2022( https://about.bnef.com/new-energy-outlook/ )」によると、各国政府および民間企業が低炭素エネルギー技術への移行に向けた断固たる行動を取れば、地球温暖化による気温上昇を摂氏2度以内に抑えるという目標達成の軌道に乗るための確実な道はまだ残っています。このレポートの発刊は国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が開催された直後となりましたが、同会議では地球温暖化対策へ有意義なより野心的な目標は見られませんでした。

BNEFによる今回の長期エネルギー見通し(NEO)では、世界のエネルギーシステム、および世界の二酸化炭素排出量の63%を占める主要9カ国によるエネルギーシステムが、現在から2050年までの間にどのような変化を遂げる可能性があるのかについて、いわゆる「経済移行シナリオ」、およびパリ協定の目標と整合する「ネットゼロ・シナリオ」の2つのシナリオに沿って分析しています。

経済移行シナリオ
世界的なエネルギー危機により、再生可能エネルギーは、世界のさまざまな地域において石炭火力発電やガス火力発電と比べ、より競争力を持つようになりました。背景には、これら化石燃料の価格が高騰していることや、エネルギー安全保障の確保に向けた後押しによって多くの国や地域がより迅速なクリーンエネルギーへの移行に取り組んでいることがあります。

経済移行シナリオ(ETS)では、現状からクリーンエネルギーへの移行を加速するための政策が新たに講じられないことを前提としています。同シナリオでは、再生可能エネルギーの急成長と運輸分野の電化によって、2050年における世界のエネルギー関連排出量はこれらの移行が行われなかった場合に比べて半減されると予測しています。これらの技術は、過去10年間にわたり、風力発電や太陽光発電、蓄電池の技術のコストが劇的に低減したおかげで、新たな補助金を必要とせずに導入量を増やしてきました。このコスト削減についてですが、足元で見られる価格上昇により停滞していますが、また再開すると予想されます。

同シナリオによると、2050年までに風力発電と太陽光発電が世界の発電量の3分の2を占める上に、これらに蓄電池を合わせると、今後30年間にわたり新たに導入される23テラワットに上る発電容量全体の85%という圧倒的な比率を占める見込みです。電力部門の排出量は2050年までに57%減少、運輸部門は道路交通における電気自動車への移行により全体は22%減少となります。世界の石炭、石油、ガスの消費量は今後10年間ですべてピークに達します。ピークを迎えた石炭は間もなく減少が始まり、一方で石油は2028年、ガスは2030年代初頭に同様の傾向がみられるでしょう。

BNEFエネルギー経済部門統括マティアス・キンメルの見解:「電力部門のエネルギー転換は順調に進んでいます。BNEFのモデル試算では、電力部門の世界全体の排出量は2023年頃にピークに達することを示しています。足元のインフレ圧力にもかかわらず、再生可能エネルギーは競争力を維持しており、再生可能エネルギーと化石燃料を用いた電源との格差は広がり続けています。現在のところ正しい軌道に沿ってはいますが、さらなる取り組みへの余地はあり、すでに経済性を持つことが明らかである対策を推進する必要があります」

このようにクリーンエネルギーは急速に導入されるものの、経済移行シナリオでは、2050年までのネットゼロの達成にはほど遠い状態です。2050年までに排出量が29%減少するとはいえ、排出対策のなされていない石炭、石油、ガスからは年間24.6ギガトンの二酸化炭素が排出されます。このシナリオでは、摂氏2.6度の気温上昇がもたらされ、パリ協定の目標を達成できません。

図1:燃料別による主要エネルギー消費量:経済移行シナリオ

出所:ブルームバーグNEF
注:「Other renewables(その他の再生可能エネルギー)」には、水力、地熱、太陽熱など、発電におけるその他すべての不燃性再生可能エネルギーが含まれます。

ネットゼロ・シナリオ
ネットゼロ・シナリオ(NZS)の場合、BNEFのモデル試算によると、クリーンエネルギーによる発電や電化に加え、比較的小規模にはなりますが二酸化炭素回収・貯留(CCS)や水素技術の急速な展開によって、気温上昇幅が摂氏1.77度に向けて軌道に乗り、2050年までに世界でネットゼロを達成できることを示しています。

発電を化石燃料からクリーン電源へ切り替えることは世界の排出量削減に最も貢献でき、2022年から2050年にかけての排出量削減全体の半分を占めます。具体的には、まだ排出対策が講じられていない化石燃料による発電を風力、太陽光、その他の再生可能エネルギー、原子力などに置き換えることです。これらクリーン電力技術の大半は、成熟した技術として現在すでに規模を誇っています。2050年までに、世界の発電システムは、風力発電(発電量全体の48%)と太陽光発電(26%)が大半を占め、残りは、その他の再生可能エネルギー(7%)、原子力(9%)、水素、および火力発電所における二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術となるでしょう。

運輸や産業部門、建物、熱分野を、低炭素の電力を用い、電化することは排出量削減において2番目に大きな貢献となります。これにより2050年までに排出量削減全体の4分の1を削減できます。これらにおいてもすでに各種技術が存在するものの、建物や産業部門での熱の電化がまだそれほど進んでいません。

そのほかの排出量削減手段となる、需要側の効率向上やリサイクル、水素、バイオエネルギー、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術を合わせると、排出量削減全体の残り4分の1を占めることになります。これらの役割は比較的小さいように見えますが、各分野で必要とされる技術の成長は依然として目覚ましいものがあります。二酸化炭素回収・貯留(CCS)容量は、2021年の約40メガトンから2030年までには1.7ギガトンに、2050年までには7ギガトン以上に増えることになります。また現在は主に化石燃料由来の水素を9,000万トン強消費していますが、2050年までには二酸化炭素を排出しない水素を約5億トン消費することになり、水素の消費量は現在の5倍以上になるでしょう。

図2: 手段別による、燃料燃焼に伴う二酸化炭素排出量の削減予想:ネットゼロ・シナリオと非移行シナリオ

出所:ブルームバーグNEF
注:「no transition(非移行)」シナリオは、仮説に基づくものであり事実とは異なります。電力部門および運輸部門では、現在の燃料構成は2021年の水準で推移しつつ、排出量はエネルギー需要予想に比例して増加しています。他のすべてのセクターでは、ネットゼロ・シナリオ(NZS)ではないものは、経済移行シナリオ(ETS)です。「Clean power(クリーン電力)」には、再生可能エネルギーおよび原子力発電が含まれます。「Bioenergy(バイオエネルギー)」は、電力セクター以外での直接利用を意味します。「Efficiency/recycling(効率性/リサイクル)」には、航空、船舶、建物における需要側の効率性向上と、産業部門におけるリサイクルの拡大が含まれます。

BNEF経済性・モデル試算部門統括で同調査レポートの執筆責任者、ディビッド・ホスタートの見解:「BNEFのネットゼロ・シナリオではパリ協定の目標達成に向けた確実な道筋がまだ残されていることが分かりますが、そこへ到達するには早急な取り組みが必要です。二酸化炭素回収・貯留(CCS)、次世代原子力技術、水素への大規模な投資に加え、クリーン電力の導入を2030年までに4倍に増やす必要があります。この10年間で目標達成の軌道に乗せるには、化石燃料の供給1ドルにつき、3ドルを低炭素エネルギーの供給に投資する必要があります。また、留意すべき重要な要素もあります。それは、電化と経済成長により、2050年までに世界の電力需要が4倍に増加するということです。電力系統の構築、低炭素技術の製造能力、主要な金属や材料の供給を大幅に加速せねばなりません。これらは、今すぐ対策を講じなければ、たちまち難しい問題へと発展しかねません」

各国の取り組み
ネットゼロ・シナリオでは、各国がそれぞれ異なる道筋を進めることを想定しています。同レポートで対象としている先進諸国(米国、英国、フランス、ドイツ、日本、オーストラリア)の場合は今後10年間で排出量が急速に減少しますが、発展途上諸国(インド、インドネシア、その他諸国)の場合、向こう数年間は排出量が増加し、その後に急速に減少します。中国は、先進国と発展途上国双方の道筋における要素を混ぜ合わせた、独自の道筋をたどります。

電力システムの低炭素化は、現在石炭に大きく依存している国々には最も影響力があります。例えば、中国(2021年の発電で石炭のシェアが61%)、インド(78%)、オーストラリア(53%)が相当します。クリーン電力への切り替えは、今後28年間の排出削減量全体の3分の2以上を占めています。発電による排出係数を既に低減している国々では、運輸、産業、建物において化石燃料を使用したさまざまなプロセスを電化することが優先事項となります。

また、同レポートでは、いくつかの国は、経済性の観点で現在競争力を持つもしくは近い将来持つようになる技術だけで、いわゆる「国が決定する貢献(NDC、Nationally Determined Contribution)」で公式に規定される各国の排出量削減目標を上回るか、2030年までのこの目標をさらに引き上げる可能性があることが判明しました。中国、インド、インドネシアはすべて、経済移行シナリオでは自国のNDCを優に達している上に、ネットゼロ・シナリオではこの目標をさらに上回ってさえいます。

移行の加速化に必要とされる主な対策
同レポートには、政策立案者と民間企業関係者に向けて、6つの主要対策分野に関する解説が記載されています。これらの対策は、ブルームバーグおよびBNEFが「NetZero Pathfinders(ネットゼロに向けたソリューション検索リソース)」( https://www.bloomberg.com/netzeropathfinders/ )の取り組みに関して開発した枠組みに基づいています。各対策は以下の通りです:

  • 成熟した気候変動対策ソリューションの導入加速化
  • 新たな気候変動対策ソリューションの開発支援
  • 炭素集約型の活動からの移行または段階的廃止の管理
  • 気候変動対策の適切な移行ガバナンス構造の策定
  • 新興国市場や発展途上諸国における移行の支援
  • 主要な材料の供給規模の拡大

「BNEFのネットゼロ・シナリオと経済移行シナリオには、エネルギー転換、ひいては世界の気候危機への対策に向けて、極めて多岐にわたる道筋が示されています。私たちの目の前にはさまざまな分かれ道があるのです。COP27から帰国した政策立案者たちには、いわば『導入までの隔たり』を埋め始める機会があります。すなわち、再生可能エネルギーや電気自動車の普及に向けた障壁を取り除いたり、水素や二酸化炭素回収・貯留(CCS)といった比較的新しい技術の開発を加速化させたり、排出対策の講じられていない化石燃料からの移行を積極的に管理することが求められる」とディビッド・ホスタートは述べています。

「長期エネルギー見通し(NEO):2022」の概要は、https://about.bnef.com/new-energy-outlook/ をご参照ください。BNEFのサービスをご利用のお客さまは、bnef.comおよびブルームバーグ ターミナルで同レポートを閲覧いただけます。

ブルームバーグNEFについて
ブルームバーグNEF(BNEF https://about.bnef.com/ )は、世界の脱炭素化についての戦略的な分析を提供する、ブルームバーグのリサーチ部門です。各国のアナリストが、脱炭素社会の実現に向けての鍵となる最先端の技術、政策、金融動向を追い、排出量の多いセクターを中心にデータやリサーチを日々配信。政府・金融・企業の戦略立案者を中心とする幅広いユーザー層にご活用いただいております。

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