EY調査、海外赴任者に関する処遇制度の見直し・再検討が急務に

EY Japanのプレスリリース

・海外赴任者の手当・給与は、「購買力補償方式・生計費・為替レート」「支給水準」「ハードシップ手当」の設定や赴任者への説明に課題感を感じる企業が多い結果に

・福利厚生面は医療費・子女教育費について支給範囲をどこまでとするかを課題に挙げる企業が多い結果に。特に子女教育費については、インターナショナルスクールに通学する場合、その費用が莫大となることから、インターナショナルスクール以外に選択肢のない地域へ子女を帯同する場合の取り扱いが課題であるため、現地幼稚園/保育園費用の支給範囲も調査。処遇面は規程の内容が古く実態とかけ離れているとする回答も目立つ結果に

・海外赴任中の退職は、赴任者が退職金を受け取った場合に、日本での退職金の選択課税の取り扱いについて、「会社からサポートは行わない」と「会社が何らかのサポートを行う」と取り扱いが二分する結果に

 

EY税理士法人およびEY行政書士法人は、日本企業の海外赴任者の手当・処遇・税務の実態を調査した「第3回EYモビリティサーベイ」を発表したことをお知らせします。3回シリーズで最後となる今回は「海外赴任者の手当・給与・福利厚生・海外赴任者規程・海外出張時の二重課税の実態」をテーマに調査を行いました。

 

各社の海外赴任者に支給する手当、一時帰国制度、帯同子女の教育、住宅関連費用等の福利厚生の支給水準の最新動向を調査した結果、適切な支給水準や処遇の情報入手に課題感を感じる企業が多いことが明らかになりました。また、海外赴任者に関する規程の抜本的な見直しや新規作成を行ったのが「10年以上前」「過去10年~6年以内」との回答割合が34%に上りました。「規程が古く、赴任者に対する処遇が実態に見合っていない」という声も聞かれ、処遇や制度の見直し・再検討が急務であることが分かりました。

 

本調査は、海外赴任者の手当・処遇・税務の実態を明らかにすることを目的とし、2022年2月~3月にかけて実施しました。主に企業の人事・経理部門を中心とした管理系部門に属する238人(215社)の回答をもとに調査・分析を行いました。

 

<第3EYモビリティサーベイの調査結果>

海外赴任者に対する手当の支給基準と金額

1.海外勤務手当

「役職ごとに定額で支給」との回答が34%と最も多く、「月収の一定割合」「年収の一定割合」も合計31%

サーベイでは、部長/課長/一般クラス別に金額を調査。全体の月額平均値は、141,861円

2.ハードシップ手当

「コンサルティング会社や調査会社の発行する指数」を基準に決定との回答が50%。「自社独自の基準や調査結果」も14%。

サーベイでは、ニューデリー、ハノイ、バンコク、ジャカルタ、マニラ、北京の支給額を調査(課長クラス相当)

傾向として、ニューデリーが最も高く、平均値が123,633円、次いでマニラ81,410円、ジャカルタ78,099円

3.単身赴任手当

「役職や年収などに関わらず全員一律」が26%、「支給していない」も同率の26%

サーベイでは、部長/課長/一般クラス別に金額を調査。全体の月額平均値は、118,150円

 

海外勤務時の時間外手当の支給状況

不支給との回答が41%と最も多い結果ですが、これは本国で時間外手当支給対象者(非管理職)であっても、海外赴任先では管理職相当となるため、赴任に伴い役職を上げる・管理職手当を支給する等で調整を行っている企業も多いためと推測できます。

 

海外給与におけるみなし税

みなし税は「概算で計算」とする回答が40%である一方、TEQ(Tax Equalization=厳密に計算)を用いて計算を行うとする回答も26%と、みなし税の方法、考え方は二分化の傾向にあります。TEQを行う場合、個人ごとに計算を行う必要があるため、税専門家やアウトソースの活用も検討の余地があります。

 

購買力補償方式・生計費・為替レートの設定・赴任者への説明に課題感

海外赴任者の手当・給与についての課題に関しては、購買力補償方式・生計費・為替レート・ハードシップ手当といった、海外赴任者給与特有の考え方について、仕組みや現地での肌感覚との違いについて赴任者の理解を得るために苦慮している担当者の姿が浮かび上がってきました。

 

海外赴任者規程の見直し・新規作成の理由・目的・課題/計画と前回見直し時期

理由・目的としては、「赴任者の処遇改善のため」との回答が過半数の結果になりました。海外間異動の活発化に伴い、グローバル共通のポリシー策定を検討する企業も増えてきていますが、「グローバル共通で利用できる規程作成のためのノウハウの習得」が課題との回答も17%と、世間相場の把握(43%)に次いで多い結果となりました。グローバル基準での手当・処遇水準については、自社調査は困難であることが多く、外部コンサルティング会社や専門家を利用して入手することも一案です。

また、前回の規程改定から年数が経っており、実態とかけ離れた処遇となっているとの声も多く、適切な処遇と会社コスト削減の観点からも、海外赴任者規程の見直しが急務と言えます。

 

海外研修生・トレーニー制度の導入傾向と課題

課題については「コスト負担についての日本での税務リスク」との回答が14%と最も多く、「海外での税務リスク」も9%と税務リスクを懸念する企業が多い傾向にあります。「研修生やトレーニー制度がない」とした回答も27%でしたが、自由回答では「海外研修制度やトレーニー制度の導入を検討するものの、制度構築や処遇設定のノウハウがなく実現していない」という声も挙げられました。

 

赴任中の退職金の取扱い

海外赴任中に赴任者が受け取る退職金については、一旦本国に帰国してから退職することと決めている企業が多く、これは赴任先・本国での税金の取り扱いが複雑化することを避ける目的もあると推測されます。赴任中の退職で、赴任先での所得税申告が発生する場合、多くの場合、正しく申告を行っていると回答されましたが、「赴任先に任せているため詳細は不明」との回答も(退職発生企業のうち)27%と少なくない結果でした。たとえ所得税を会社が負担しない場合でも、赴任先で正しく税務申告が行われているかをチェックすることは非常に重要です。

 

海外短期出向者・長期出張者の現地納税・日本との二重課税

現地納税が発生した場合の納税額負担者については、「最終負担者は日本」とする回答が約3割に上りました。また、現地と日本で二重課税が生じた際は「日本の確定申告で外国税額控除を適用」との回答が3割を超える結果となりました。短期滞在者免税の日数計算方法の誤りや、意図せず出張日数が超過してしまうなど、思わぬところで申告漏れが発生するケースも多く、今後海外出張が再開する見込みであることから、出張者の納税に関しても充分な注意が必要です。

 

EY税理士法人 パートナー 藤井 恵(ふじい めぐみ)のコメント:

「本調査において、海外赴任者の規程見直し・新規作成の理由・目的が、「処遇改善」に次いで「コスト見直し・コスト削減」であることからもわかるように、処遇改善により海外赴任候補者の増加や赴任者の納得感を増やしたいと考えつつも、コスト削減の検討が必要な苦しい状況が明らかです。

一般に、外資系企業においては、海外赴任の目的・役職に応じてメリハリのついた処遇を提供しつつ、グローバル本社が一元管理しコスト管理に力を入れています。日本企業は赴任の目的・役職に関係なく手厚い処遇を提供し、コスト管理は本社で積極的に行っていません。そのため総コストが把握できず、税務リスクも大きくなりがちです。また、国をまたぐ人の異動においては日本および赴任国双方の税務についての検討が必要になります。グローバル化のもと、人の異動を促進させたいものの、税務リスクがネックになっていることも明確になりました。

これら課題の根源は海外赴任者の手当・処遇などを定める海外赴任者の規程、それにともなう本社・現地法人側の費用負担を定める出向契約書にあります。規程などの見直しに際しては、処遇の観点だけでなく、赴任元と赴任先の双方の税務やビザ、労務等についての専門知識が不可欠で、これら視点を同時に取り入れながら規程見直しなどを行うことが重要です。EYでは今後、第1回~3回の調査結果の詳細を分析し、その一部を公開する予定です」

 

調査結果の概要:

調査結果(調査結果の主要部分を抜粋)は、以下よりご覧ください。  

https://assets.ey.com/content/dam/ey-sites/ey-com/ja_jp/news/2022/pdf/ey-japan-mobility-survey-2022-04.pdf

 

<第3EYモビリティサーベイ概要>

本調査は、海外赴任者・出張者・海外からの出向者の実態を明らかにすることを目的とし、3回シリーズで実施し、今回が最終回となります。

 

目的:海外赴任者・出張者・海外からの出向者の実態調査・分析

テーマ:海外赴任者の手当・給与・福利厚生・海外赴任者規程・海外出張時の二重課税

実施期間:2022年2月14日(月)~2022年3月31日(木)

回答者数:238名(有効回答数* :215社)

*同一企業から複数名ご回答いただいた場合は、以下の基準により代表回答を選定

1. 本社と現地子会社-本社の回答を優先

2. 人事系部署とそれ以外の部署-人事系部署を優先

3. 同一部署内で複数名のご回答-設問に対する有効回答数が多い方を優先

 

 

これまでの調査結果:

・第1回EYモビリティサーベイ

コロナ禍の一時帰国者処遇、利用できないベネフィット・残留赴任者の取り扱い、費用負担、赴任者総コスト、任地個人所得税

第1回:2021年10月22日(金)~2021年11月26日(金)
EY調査、新型コロナウイルスの海外赴任への影響や赴任者コストに関する実態が明らかに

 

・第2回EYモビリティサーベイ

ビザ・水際対策・海外出張・外国籍社員の受け入れ

第2回:2021年12月8日(水)~2022年1月17日(月)

EY調査、新型コロナウイルスの水際対策による企業活動への影響の大きさが鮮明に

 

 

補足資料:

3回全調査項目は以下の通りです。(太字箇所は調査結果の概要にて記載)

1.ご回答者の所属部署と役職

回答者の9割が人事を中心とした管理部門、回答は一般社員から取締役まで幅広い

2.ご回答者の属性

-日系/外資系・産業別

3.海外勤務手当の支給基準

-約6割が役職・年収・月収に応じて支給、1割が全員一律、支給ない企業も1割以上

4.海外勤務手当の支給金額

 

5.ハードシップ手当の支給対象都市・金額基準決定要素

-コンサル会社指標利用が半数、次いで自社独自基準・調査結果利用が14%

6.ハードシップ手当の都市別金額

 

7.単身赴任手当の支給基準

-支給企業は全体の約7割、支給方法は全員一律とする企業が最も多い

8.単身赴任手当の支給金額

 

9.海外役職手当の支給基準

不支給企業が半数超、支給の場合は赴任先役職で設定が多数、トップのみは1割弱

10.海外勤務時の時間外手当の支給状況

 

11.みなし税の計算方法

-概算で実施が4割だが、TEQを行い厳密に計算する企業も3割近く存在

12.赴任先給与水準が赴任者給与を上回る場合

 

13.海外赴任者の手当・給与についての課題

-購買力補償方式・生計費・為替レート・支給水準・手当・オペレーション・税務に課題

14.住居費の支給範囲

 

15.海外旅行保険、医療保険等で賄えない医療費の取り扱い

 

16.帯同子女の幼稚園/保育園費用の支給範囲

-「一部会社支給」「全額会社支給」の回答を合計すると全体の約9

17.一時帰国時の会社支給項目

 

18.一時帰国費用の支給頻度(家族帯同/単身/独身)

 

19.海外赴任者の福利厚生に関する課題

 

20.海外赴任者規程の見直し・新規作成の計画と前回見直し時期について

3割の企業が過去1年から向こう1年以内に規定の見直しを検討

21.海外赴任者規程の見直し・新規作成の理由・目的

-「赴任者の処遇改善」を目的としているとの回答が全体の5割超と最も多い結果に

22.海外赴任者規程見直し・新規作成時の課題

-世間相場把握に課題ありが4割超、グローバル共通化ノウハウ獲得に課題が約2

23.海外研修生やトレーニーの課題

-コスト負担や税務リスク等課題は多岐にわたる

24.海外赴任中の退職(日本での退職金選択課税 )

 

25.海外赴任中の退職金にかかる赴任先国での所得税申告

-該当ケースなしを除くと、多くの企業が赴任先で正しく申告・納付を実施

26.海外赴任中の帰国後の離職率(国内勤務者との比較)

 

27.赴任者・帰任者の離職予防策と課題

 

28.海外赴任者規程や海外研修・トレーニー制度、赴任中の退職金に関する課題
(回答例)

29.海外短期出向者・長期出張者(海外滞在日数年間90日以上の年間発生件数)

 

30.海外短期出向者・長期出張者(現地納税の取り扱い)

-発生したケースにおいては「現地法人が立て替え払い、最終負担者は日本本社」が最多

31.日本・現地二重課税発生時の対応

-日本で確定申告を行い、外国税額控除適用とすることで回避する企業が全体の3割強

 

 

〈EYについて〉

EY | Building a better working world

EYは、「Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)」をパーパスとしています。クライアント、人々、そして社会のために長期的価値を創出し、資本市場における信頼の構築に貢献します。

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アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションの全サービスを通して、世界が直面する複雑な問題に対し優れた課題提起(better question)をすることで、新たな解決策を導きます。

 

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〈EY税理士法人について〉

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