三井住友信託銀行株式会社のプレスリリース
日本は、高齢化率、認知症有病率が高い中
2020年、認知症高齢者が保有する資産は“約250兆円”
高齢化の進展に伴い、2040年には“約345兆円”に
三井住友信託銀行株式会社(取締役社長:大山 一也)は、当社が独自(※1)に推計した認知症高齢者が保有すると推定される全国の「資産総額」、「金融資産」、「不動産」を発表しました。全国の認知症高齢者が保有すると推定される資産総額は、2020年で約250兆円、2040年には約345兆円にまで増加することが分かりました。また、都道府県別でみると、東京都を中心に三大都市圏に集中している一方で、北海道と福岡県が金融資産で5兆円を上回り、また、2020年から2040年への不動産の増加率では、沖縄県が最大、宮城県が次点となるなど地方の意外な結果も浮き彫りになりました。
※1:日本銀行「資金循環統計」、総務省「全国家計構造調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」、厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業報告書などから、当社の調査部が独自に推計
●日本の認知症高齢者が保有する資産総額は2020年で約250兆円、2030年に314.2兆円、2040年には約345兆円に増加
●うち金融資産は約170兆円から約237兆円(2040年)へ、うち不動産は約80兆円から約108兆円(2040年)に増加
●金融、不動産ともに三大都市圏に集中するが、特に不動産は、三大都市圏で72%
●いずれも金額ベースでは東京が最大。金融資産では、2040年に神奈川県が東京都を抜き最大へ
●2020年から2040年への増加率でみると、金融資産では埼玉県、不動産では沖縄県が大きい
●全金融資産に占める認知症高齢者保有の資産額の割合は、東京都は低い。最大は新潟県
■高齢化率が世界最高、認知症有病率も先進国ではトップに
内閣府が発表した令和3年版高齢社会白書によると、日本の65歳以上人口は3619万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.8%で世界最高でした。さらに、2040年には3人に1人が65歳以上になると推計されています。また、経済協力開発機構(OECD)が発表する日本人の認知症有病率(病気を持っている人の割合)は2.33%で、OECDに加盟する先進国35カ国の中でもっとも高い数字です。さらには、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるとの調査結果も出されています(厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業報告書2013年)。
このように、日本における高齢化社会および、認知症患者数の増加は世界と比較しても進んでおり、社会的な課題の一つとなっています。
■全国の認知症高齢者が保有する資産総額は2020年で約250兆円、2040年には約345兆円に増加
認知症高齢者が保有すると推定される資産額は増加傾向にあります。認知症を発症した場合、認知判断能力の低下により、従前のような金融取引や不動産の管理が困難になるケースがあり、社会的な課題となっています。これには後見制度や信託などで、介護、入院などを始め、本人のための必要な費用について、資産を引き出せるように事前に準備しておくことが有効ですが、自由に動かせない資産となっているケースも多く、社会全体で見ても、経済的なロスが生じていることとなってしまいます。
今回、当社が独自推計したところ、認知有病者が保有する全国の金融資産および不動産の総資産額は、2020年で252.1兆円となり、2030年に314.2兆円、2040年には345.0兆円まで増加することが分かりました。
◆認知症高齢者が保有する資産総額の推計
■認知症高齢者が保有する金融資産は2020年の約170兆円から、2040年には約237兆円へ、
不動産は2020年の約80兆円から、2040年には約108兆円へ
今回の推計は、「金融資産」と、住宅と土地を合わせた「不動産」を対象としています。内訳をみると、認知症高齢者が保有すると推定される金融資産は、2020年で172.2兆円となり、家計保有金融資産総額の8.6%です。同じく不動産は、79.9兆円で家計保有不動産総額の7.4%となりました。また、2030年に金融資産が214.1兆円、不動産が100.1兆円となり、2040年には、金融資産は237.3兆円で、家計保有金融資産総額の12.9%。不動産は、107.7兆円で、家計保有不動産総額の10.8%という結果になりました。 日本には将来的に自由に動かせなくなる可能性が高い資産が、潜在的に存在していることがうかがえます。
◆2020年 家計資産総額
◆2030年 家計資産総額
◆2040年 家計資産総額
■金融、不動産ともに三大都市圏に認知症高齢者が保有する資産が集中
次に、都道府県別で認知症高齢者が保有すると推定される各資産額と全国に占める割合からその傾向を見てみますと、群を抜いて大きなシェアを持っているのが東京都で、認知症高齢者が保有すると推計される金融資産が18.9兆円と全国の10.9%になります。認知症高齢者が保有すると推計される不動産は、25.4兆円で全国の30.6%でした。
認知症高齢者が保有すると推定される金融資産を見ると、東京都に次いで、神奈川県16.3兆円(9.5%)、大阪府12.3兆円(7.1%) 、愛知県11.2兆円(6.5%)、埼玉県10.8兆円(6.3%)となり、この5都県で全国の40.3%となり、上位10エリアまで広げると59.5%。三大都市圏に集中していることが分かります。
続いて、認知症高齢者が保有すると推定される不動産では、さらに集中度が高く上位5都県で59.0% 、上位10エリアで74.2%となりました。東京都以降は、 神奈川県8.9兆円(10.7%)、愛知県5.1兆円(6.1%)、大阪府5.0兆円(6.0%)、埼玉県4.7兆円(5.7%)でした。三大都市圏合計では72.1%になります。
東京都、神奈川県は、各資産とも2020年、そして2040年でも最上位となっており、他都道府県と大きな開きがあります。
◆2020年・2040年 都道府県別 認知症高齢者保有金融資産
◆2020年・2040年 都道府県別 認知症高齢者保有不動産
■2020年から2040年への増加率は、金融資産では埼玉県、不動産では沖縄県が大きい
次に、都道府県別の2020年から2040年への増加率を推計しました。認知症高齢者が保有すると推定される金融資産の増加率でみてみると、全国合計では40.7%でした。都道府県別では、埼玉県が最も大きく、2020年の10.8兆円から2040年には18.2兆円で増加率が68.4%、次いで神奈川県の60.6%、沖縄県の52.3%と続きます。この結果、神奈川県は2040年には同金融資産が26.2兆円となり、東京都の25.0兆円を抜いて最大となる見込みです。これは神奈川県の方が高齢化が加速し、認知症高齢者数の増加率が東京都を大きく上回る(2020年→2040年の増加率は神奈川県52. 9%、東京都40.7%)と予想されることが要因です。認知症高齢者が保有すると推定される不動産額の増加率では、全国合計では35.5%という結果になりました。増加率が特に高い県は、沖縄県で58.5%、宮城県の56.4%、埼玉県55.9%と続きます。この結果、埼玉県は金融資産でも不動産でも金額の多い都道府県として2020年の5番目から2040年には3番目に上昇していくことが予想されます。
◆2020年⇒2040年 認知症高齢者の保有する金融資産 増加率 都道府県別推計
◆2020年⇒2040年 認知症高齢者の保有する不動産 増加率 都道府県別推計
■全金融資産に占める認知症高齢者保有の資産額の割合は、東京都は低く、最大は新潟県
最後に、都道府県別に家計保有資産に占める認知症高齢者保有の資産割合を算出しています。金融資産では、東京都は6.6%と2番目に少ない水準である一方、新潟県が13.9%と東京都の2倍以上の水準となっています。また、不動産でみると、東京都は認知症高齢者が保有する不動産が群を抜いていることもあり高い水準となっていますが、金融資産と不動産の総額では金融資産での割合が大きく、新潟県が最大の割合となっています。新潟県は高齢者比率が岩手県などと並んで高い上、高齢層が保有す金融資産額が相対的に大きいことが要因と推測されます。
◆2020年 保有者別金融資産 都道府県別推計
◆2020年 保有者別不動産 都道府県別推計
◆2020年 保有者別資産総額 都道府県別推計
「日本における高齢化の進展に伴う認知症高齢者が保有される資産の増大は大きな社会課題です。そして、今回の結果を受けて、人生100年時代における後見や信託を通じた事前の準備が非常に重要だと改めて実感しています。認知高齢者が将来的に増えていく中、仮に認知症を発症したとしても後見や信託という仕組みを通じて、ご本人さまやご家族の方が、金銭的にも、精神的にも安心して、豊かな暮らしを支えることに、信託銀行としてしっかりと貢献して参りたいと考えております。」(人生100年応援部長 谷口)