一般社団法人日本損害保険協会のプレスリリース
一般社団法人 日本損害保険協会(会長:舩曵 真一郎)は、2021年12月14日(火)14時より、「中小企業に必要な保険」特設サイト(URL:https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/)を公開しました。中小企業を取り巻くリスクや企業向けの損害保険について、保険で補償される具体的な事故事例とあわせて知ることが出来るサイトです。
中小企業の約6割が「近年リスクが増加している」と認識している※ことからもわかるように、予測不能な自然災害、身近に潜むサイバー攻撃、社内で起きるハラスメントなど、本年も様々なニュースがありました。本ニュースレターでは、<2021年・中小企業のリスクに関わるニュース3選>と題し、中小企業の経営者や従業員の方の実際の声とともに、中小企業を取り巻くリスクとその対策についてお伝えします。
※一般社団法人 日本損害保険協会『中小企業のリスク意識・対策実態調査2021』より
<2021年・中小企業のリスクに関わるニュース3選>
- 世界で4番目に気候変動のリスクが高い日本
- 国際的スポーツイベント開催中のサイバー攻撃は約4.5億回
- 2022年4月1日から中小事業主も「パワハラ防止措置」義務化の対象に
- 世界で4番目に気候変動のリスクが高い日本
2021年初めに発表された「世界気候リスク指標2021」において、気候変動のリスクが世界で4番目に大きいとされた日本。台風や豪雨など、多発する自然災害はもはや国内の問題に留まらず、世界の中でも異常気象を代表する例になっていると言えます。
また、昨年に続き猛威をふるった新型コロナウイルス感染症。「新型コロナウイルス関連倒産」の件数は、12月2日時点で累計2,480件にものぼります。中小企業の経営者・従業員の方へのインタビューでも、もし感染者が発生すれば工場の操業を止めなければならないなど、会社の存続に関わるリスクだという悲痛な声が上がりました。
日本損害保険協会が実施したアンケート調査においても、「取引先の廃業等による売上の減少」「感染症」は、“直近2~3年で増えてきたと思うリスク”として上位に挙がっており、経営課題としての関心度に関する設問でも8割以上が「関心がある」と回答しています。
自然災害や感染症によって、人々の生活が脅かされるだけでなく、企業も営業停止や休業に追い込まれるなど大きなスクに晒されています。営業停止や休業のリスクに対応する保険として、休業補償保険(利益保険)があります。日本損害保険協会の担当者は、「休業補償保険(利益保険)は、事業継続を包括的にサポートします。新型コロナウイルス感染症のような新興の感染症にも、商品改定を実施して新たに対応した保険会社もあり、企業に寄り添う保険です」とコメントしています。
「常時多くの在庫を保管しているわけではないため、自然災害や感染症により工場の操業を停止せざるを得なくなることは大きなリスク」(香料製造業、47歳・男性)
「従業員が1人でもコロナに感染すると2週間工場を止めなければならない。影響が長引くと取引先が離れてしまうかもしれない」(アパレル製造業、47歳・男性)
<日本損害保険協会からのコメント>
火災や水災などの偶然な事故で建物や設備に損害が生じたことにより、営業が阻害されたり休業したりした場合の利益損失や各種費用を補償する保険として、「休業補償保険」(利益保険)があります。休業や売上高の減少によって生じた利益の減少を補償することに加え、仮店舗の借用といった営業継続のために支出を余儀なくされる費用や、収益減少を防止・軽減するために発生した費用も補償するなど、事業継続を包括的にサポートします。
また、施設における食中毒や感染症の発生による休業を補償する商品もあります。そのような商品では、新型コロナウイルス感染症のような新興の感染症は補償の対象外とされているのが一般的ですが、一部の保険会社では商品改定を実施して新型コロナウイルス感染症に関する補償を新たに設けました。具体的には、施設内で新型コロナウイルス感染症が発生し、保健所の指示に基づき施設の消毒を行った場合の費用等に対して保険金をお支払いしたり、施設の従業員や来場者が新型コロナウイルス感染症に罹患したことが判明して保健所の指示に基づき休業を余儀なくされた場合に、その休業日数に応じて保険金をお支払いしたりするものです。なお、施設内での感染症の発生を伴わない休業や政府・地方自治体による休業要請に基づく営業自粛などは補償の対象外です。
- 国際的スポーツイベント開催中のサイバー攻撃は約4.5億回
新型コロナウイルス感染症の影響により、多くのスポーツイベントが中止や延期、無観客開催となり、2021年はリアルタイムで観戦するための通信サービスが重要となった年とも言えるでしょう。その裏で、約4.5億回ものサイバー攻撃があったことはご存じでしょうか。
一般企業においても、リモートワークの影響によりサイバー攻撃の被害を受けたという方や、社外における作業やオンラインでのやりとりが増えてネットワークセキュリティに対して不安に思う方もいらっしゃるようです。企業向けの損害保険に加入している方に加入のきっかけを聞くと、「被害が出ているわけではないが、リスクに感じることが多いから」(39.4%)が最も多く、「自社/周囲の企業が被害を受けたから」も約1割と、実際に身近で被害が発生したため加入に至ったケースも見受けられました。サイバー保険に加入している企業の方からは、親会社との取り決めにより加入したとの声もありました。また、「情報漏洩賠償責任保険」「サイバー保険」への加入のきっかけとしては、「年々リスクが複雑化していると思うから」との回答が他の保険と比べて多く、リスクの増加や保険の必要性が認識され始めている様子がうかがえます。
日本損害保険協会の担当者は、「現在、中小企業のネットワークや従業員のメールアドレスなどを経由して取引先の大企業を狙う『サプライチェーン攻撃』が猛威を振るっています。保険会社によっては、サイバー保険とあわせて事故発生を未然に防ぐためのサービスや、事故発生時の迅速な復旧のために専門業者を紹介するなど事後のサービスを提供している会社もあり、企業のリスクマネジメントを多面的にサポートします」とコメントしています。
「会社のパソコンを支給し切れず、リモートワークの影響で情報漏洩が発生した。弁護士を雇って損害賠償の係争中」(電子部品製造、68歳・男性)
「サイバー攻撃は身近に発生するものではないと思っていたが、1年前に被害を受け、取引先や顧客からの信用がなくなったことを肌で感じた。影響範囲を最小限にするためにも、保険加入や事前のセキュリティ対策は大切だと感じている」(IT<通信>、34歳・男性)
<日本損害保険協会からのコメント>
サイバー保険は、サイバー攻撃等のサイバーセキュリティに関連する事故により企業に生じた第三者に対する損害賠償責任、事故対応に必要となる費用、自社の休業損害等を包括的に補償する保険です。サイバー保険の機能としては大きく4つあります。
1つは、サイバー攻撃等の被害時に企業がとるべき対応に必要な費用を補償する機能です。企業にサイバー攻撃等のセキュリティ上のトラブルが発生した場合、トラブルの原因や影響範囲の調査を実施し、被害拡大防止の措置をとるといった初動対応が重要です。お客様の個人情報を漏洩するなどの被害が発生した場合は、お詫び状・見舞金の送付やコールセンター設置といった対外的な謝罪対応も欠かせません。また、データの復旧や再発防止のためのセキュリティ強化を図ることも必要であり、サイバー保険はこれらの費用を幅広く補償します。
2つめは、第三者への損害賠償を行うことによる損害を補償する機能です。現在、比較的セキュリティ対策が行き届いていない中小企業のネットワークや従業員のメールアドレスなどを経由して、その取引先の大企業を狙う「サプライチェーン攻撃」が猛威を振るっています。中小企業のセキュリティの不備が原因で、元請会社、完成品メーカー、フランチャイズ本部など大企業がサイバー攻撃を受けてその事業を阻害してしまった場合、原因調査や謝罪対応にかかる費用や休業損害について損害賠償請求を受けてしまうといったケースが想定されます。サイバーリスクは、被害者であるはずの企業が加害者となってしまうのが怖いところです。
3つめは、システムの誤操作やサイバー攻撃等によりネットワークを構成するコンピュータやソフトウェア等が機能停止してしまった場合の自社の休業損害や営業継続費用を補償する機能です。
4つめは、事前・事後のサービスを提供する機能です。保険会社によっては、事故発生を未然に防ぐためにリスク診断などを行う事前のサービスや、事故発生時に迅速な復旧を行うために専門業者を紹介するなどの事後のサービスを提供している会社があり、企業のリスクマネジメントを多面的にサポートします。
- 2022年4月1日から中小事業主も「パワハラ防止措置」義務化の対象に
2020年6月1日より、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行され、企業がハラスメントの防止・対策を行なうことが義務付けられました。2022年4月1日からは大企業だけでなく中小企業も義務化の対象になります。一方、全国の中小企業経営者を対象にしたアンケート調査では、61%が“パワハラ防止法による防止措置の義務化”を「知らない」と回答。防止措置そのものも「特に実施していない」が65%と、意識改革の必要性が感じられます。
インタビューでは、パワハラなどのハラスメントを見聞きしたことがあるという意見も多く聞かれました。日本損害保険協会が実施したアンケート調査においても、実際に勤め先の企業で「何らかのリスクにより被害を受けたことがある」と回答した方に“被害を受けた際の考え”を聞くと、「被害がこんなにも大きくなるとは思っていなかった」、「うちの会社ではまさか起こらないと思っていた」といった、リスクを他人事に捉えていたような回答が半数近くありました。
日本損害保険協会の担当者は、「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)だけでなく、女性活躍・ハラスメント規制法においてもパワハラ防止への取組みが法律上義務化されるなど、企業の責任を問われやすい環境になっています。雇用慣行賠償責任保険は、ハラスメントや不当解雇等に起因する損害賠償請求を受けたことによって企業や役員等が被る損害を補償します。ハラスメント等による賠償リスクは中小企業にとって他人事ではなく、今後、さらなる対策が求められると考えられます」とコメントしています。
「投資先の会社から、“辞める従業員にパワハラで訴訟を起こされた”という話を聞いた」(投資ファンド、51歳・男性)
「従業員からパワハラに関する相談を受けることはよくある」(建設<コンクリート>、42歳・男性)
<日本損害保険協会からのコメント>
ハラスメント・不当解雇等の侵害行為に起因して企業や役員等が従業員等から損害賠償請求を受けたことによって被る損害を補償する保険として、「雇用慣行賠償責任保険」があります。企業や役員等が負担する法律上の損害賠償金に加えて、弁護士費用等の争訟費用を補償します。改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)だけでなく、女性活躍・ハラスメント規制法においてもパワハラ防止への取組みが法律上義務化されるなど、企業にとってハラスメントに関連する賠償リスクは高まる傾向にあると考えられます。
実際に、厚生労働省が受けつけた労働問題の相談件数は年々増加し、年間100万件を超えているというデータもあります。アンケート調査においても、「従業員からの損害賠償請求(ハラスメント等)」を受けたことがあると答えた中小企業の方に、その対応に要した金額を質問したところ、「500万円~1,000万円未満」という回答が2割を超える結果となっており、ハラスメント等による賠償リスクは中小企業にとって他人事ではなく、今後、さらなる対策が求められると考えられます。
- まとめ
2021年に発生した様々なリスクに関して、実際に被害を被った方はもちろん、知人や取引先など、身近なところで被害を受けているのを見聞きしたという方も多いのではないでしょうか。実際に、前述の日本損害保険協会のアンケート調査では、「勤め先の企業で何らかのリスクにより被害を受けたことがあるか」という質問に対して回答者の27.0%が「ある」と回答しました。また、40.9%が「周囲で何らかの被害を受けたという話を見聞きしたことがある」と回答し、リスクが身近に潜んでいる実情がうかがえます。
保険は、自然災害や感染症、サイバー攻撃などの予測しきれないリスクに対応し、企業の事業継続を包括的にサポートしてくれる存在です。万一の事態が発生して「うちの会社ではまさか起こらないと思っていた・・」とならないためにも、多様化・複雑化するリスクを認識し、対策の一歩を踏み出すことが大切です。
<調査概要>
■アンケート調査
・調査期間:2021年7月16日(金)~7月21日(水)
・調査方法:インターネット調査
・調査対象: 中小企業の経営者および従業員<条件>損害保険契約関与者(決定権あり/選定関与)
・サンプル数:1,031サンプル
・調査結果URL:https://www.sonpo.or.jp/news/release/2021/pdf/sme_report2021.pdf
※nは有効回答数です。
<参考情報>
・中小企業に必要な保険(特設サイト):https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/
※2021年12月14日(火)14時より公開
<出典>
➀『世界気候リスク指標2021』/Germanwatch
https://reliefweb.int/report/world/global-climate-risk-index-2021
新型コロナウイルス関連倒産の発生累計件数/帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/index.html
②NTTの貢献/日本電信電話株式会社
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/10/21/211021a.html
③中小企業経営者アンケート「大同生命サーベイ」2021年3月度調査/大同生命保険株式会社
https://www.daido-life.co.jp/company/news/2021/pdf/210419_news.pdf