「触媒的資本は、誰もが逃げていくときに到達する資本」(ディエヴァ氏)/日本への助言:「税制インセンティブ。非常にシンプル」(コール氏)
ソーシャス株式会社のプレスリリース

【翻訳に関する注記】 本パネルは英語で実施。本リリースに掲載する各登壇者の引用は、当日発言の要旨翻訳(一部は逐語訳)。
セッション概要
ソーシャス株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役:尹世羅)は、2026年4月26日(日)、東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井カンファレンスにて開催した招待制エグゼクティブサミット「Tech for Impact Summit 2026(https://tech4impactsummit.com/ja)」のメインステージにて、「Catalytic Funding & Impact Investment: Bridging Japanese Capital and Global Resilience(触媒的資本とインパクト投資:日本の資本とグローバルレジリエンスの架け橋)」パネルを実施いたしました。
GPIF(運用資産およそ1.7兆ドル、世界最大の年金ファンド)、新NISA制度による個人金融資産の動き、気候・開発分野での資金ギャップ——日本の公的・機関・個人資本を、本物の触媒的投資・インパクト・ファンディングに整合させられるか。地政学的不安定が資本の流れを変えるなかで、構造的論点を率直に議論しました。

登壇者
・渋澤 健 氏 — シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役/コモンズ投信株式会社 取締役会長/株式会社&Capital 代表取締役CEO(渋沢栄一の玄孫)
・イェスパー・コール 氏 — マネックスグループ&ジャパン・カタリスト・ファンド エキスパートディレクター
・アナスタシア・ディエヴァ 氏 — トカレフ財団(ウクライナ)CEO/元ウクライナ内務省副大臣
・ティム・ケリー 氏(モデレーター) — ロイター通信 シニア特派員(東京)
議論のハイライト
1. 「触媒的資本」の定義——3者3様の視点
モデレーターのティム・ケリー氏が冒頭で投げかけた問い——「日本の個人・機関・公的資本を、本物の触媒的投資・インパクト・ファンディングに整合させられるか」。各登壇者の定義は、立場の違いを鮮やかに浮かび上がらせました。
渋澤健氏は、触媒的資本を投資家タイプの観点から整理しました。
「触媒的資本は『触媒』である以上、それ自体が大きな金額である必要はない。重要なのは、後続の——より大型の——資本を呼び込むこと。投資家には大きく2種類ある。財務リターンだけを求める金融投資家と、財務リターンに加えて事業戦略上の意味を求めるストラテジック投資家。大規模な金融投資家を巻き込むには、触媒的資本そのものがある程度の規模を持つ必要がある」(渋澤氏、要旨翻訳)
イェスパー・コール氏は、日本の機関投資家がすでに「触媒的投資家」として機能していると評価。
「日本は実に大きな触媒的投資家であり、過去40年間、ほぼ毎年、世界最大の債権国であり続けてきた。GPIFは、ESG・SDG型投資の全体を牽引してきた。原点である『三方良し』に立ち返れば、財務リターンは経営の責任の一要素にすぎない——取引先、従業員、地域コミュニティ、多様なステークホルダーへの責任がある」(コール氏、要旨翻訳)
アナスタシア・ディエヴァ氏は、戦時下ウクライナの最前線の視座から、定義そのものを書き換えました。
「触媒的資本は、誰もが逃げていくときに到達する資本。私たちにとっての触媒的資本とは、極度に切迫した時間のなかでの『忍耐』にほかならない。18か月でROIを求める通常の投資ロジックは、ここでは成り立たない。社会の異なる次元——開発機関、投資会社、企業、政府、社会セクター、地域コミュニティ——その間に生じる隙間を埋める『充填材』だ」(ディエヴァ氏、要旨翻訳)

2. 日本の機関資本の構造変化——GPIF・三方良し・JICAファースト・ロス法改正
コール氏は、年金ファンドであるGPIFがリターン責任を負いながら、なぜマルチステークホルダー投資が両立するかを、製鉄所の事例で説明しました。
「製鉄所に投資してリターンを得る——それだけでは、数十年単位の持続性は担保できない。年金ファンドが本当に必要としているのは、その製鉄所の周辺コミュニティが、30年・50年と機能し続けることだ」(コール氏、要旨翻訳)
コール氏は、日本政府が先週立ち上げた東南アジア向け医療物資供給100億ドル規模ファンドを「欧米の対応規模を大きく上回る」と評価し、日本の公的資本の機動力を指摘しました。
一方、渋澤氏は、日本の公的資本のあり方そのものを変える歴史的な法改正に注目しました。
「日本政府は昨年、JICA(国際協力機構)の海外開発援助において、触媒的資本——つまりファースト・ロス(初期損失負担)——を取れる法的権限を初めて与えた。長年議論されてきたが、法改正は昨年が初めて。2025年8月のTICAD(東京国際アフリカ開発会議)で、JICAは実績のある3つのアフリカ・インパクト・ファンドに投資した。これは日本の公的資本の歴史的な転換点だ」(渋澤氏、要旨翻訳)
渋澤氏はまた、機関投資家の限界を、自身が関与した経済同友会のアフリカ・インパクト・ファンドの事例で具体的に示しました。
「経済同友会のアフリカ・インパクト・ファンドで、リード投資家になったのは金融機関ではなく、日本タバコ(JT)という事業会社だった。100社以上の企業を訪問し主要な金融機関にも当たったが、500万〜1,000万ドル規模の触媒的資本では、機関投資家のパフォーマンスに影響しなく、且つ、マインド的には実績あるファンドに出資することを主としている——だから動けない」(渋澤氏、要旨翻訳)
渋澤氏はさらに、玄祖父・渋沢栄一の哲学を現代に照らし、「公益と利潤を『バランス』ではなく『統合(integration)』として捉える視点」と、ROE一辺倒の経営学を超えた「Resilience(粘り強さ)」を、日本企業の構造的優位として再定義しました。

3. 「Pax Nipponica」——米中信頼喪失時代の日本の役割
コール氏は3年間にわたり、「Pax Nipponica(パックス・ニポニカ)」というテーゼを発信し続けています。世界秩序の変容のなかで日本が持つ構造的優位性を、地政学的観点から整理する枠組みです。
「私は3年間、Pax Nipponicaを提唱してきた。米国と中国——2つの超大国を、もはや単純に信頼できなくなった世界。これは反中・反米のイデオロギーではない。ミドルパワー国家の立場に立てば、2大国はどちらも信頼に足らないというのが現実だ」(コール氏、要旨翻訳)
そのうえで日本が「公正なブローカー(honest broker)」たりうる理由として、コール氏は4つの構造的条件——(1)過去40年間、世界最大級の債権国、(2)社会システム(特に医療)が国際的に尊敬されている、(3)高齢化により”脅威”ではなくなった、(4)2大国の間に位置する地政学的中立性——を挙げ、医療システムを具体例で補強しました。
「カリフォルニア州では毎年およそ42万人が、医療費を払えずに自己破産する。日本では、医療費を理由に自己破産する人はいない。機能している医療システムがあるからだ。だから日本は尊敬される」(コール氏、要旨翻訳)
4. AIデータセンターと社会インフラ——投資家のコミュニティ責任
日本各地で進むAIデータセンター投資について、コール氏は「資本の提供者がコミュニティへの影響を能動的に問うべき」と、長期投資家の責任を強調しました。
「いま日本中で建てられているAIデータセンター——あれは『暗い工場の中をロボットが走り回るだけの場所』ではない。データセンターが吸い上げるエネルギーが、周辺の村落の生活水準を引き下げないか——資本の提供者として、そこまで要求するのが投資家の役割だ。この点で、日本はすでにかなり良い仕事をしている」(コール氏、要旨翻訳)

5. 戦時下ウクライナからの3原則——「フロンティアで機能する触媒的資本」
ディエヴァ氏は、ウクライナを「テンプレートではなく、検証済みのプルーフ・オブ・コンセプト」として位置づけ、最前線で機能する触媒的資本の設計原則を3つに整理しました。
原則1:人材ファースト——「従来の復興モデルは『道路を作り、家を建て、それから人を支える』というピラミッドだった。私たちはこれを反転させる。まず人に投資する。最前線地域の——病院もない場所の——一人の女性に、ヘルステック起業家になる能力を授ければ、彼女が遠隔医療を導入し、より多くの病院のないコミュニティに医療が届く」
原則2:プロジェクトではなくエコシステムを支える——「プロジェクトには始まりと終わりがある。エコシステムは違う。戦時下で1要素が壊れても、他の要素が補完しうる」
原則3:正直なドキュメンテーション——「私たちは『インパクト測定』にあまりにも執着しすぎている。だが、紛争地ではそれらのフレームワークは崩壊し、機能しない。何が機能し、何が機能していないかを正直に記録し、現地の橋渡し役が透明性を保証することのほうが、ずっと重要だ」
ディエヴァ氏はさらに、ウクライナの国家アプリ「Diia(ジィヤ)」が3,000万台超のスマートフォンにダウンロードされ、戦時下にも関わらず——あるいは戦時下だからこそ——汚職を削減し、公共サービスを高度化したと紹介しました。
「ウクライナでは、必要に迫られてイノベーションが生まれる。私たちが特別にクリエイティブだから——もちろんクリエイティブではあるが——というわけではない。これは、必要性そのものから生まれているのだ」(ディエヴァ氏、要旨翻訳)
そして、「インパクトはソフトで感情的なもの」という見方に、ディエヴァ氏は強く反論しました。
「正直に言って、インパクトは『ソフトで、優しく、社会と環境が砂場で仲良く遊んでいるもの』という見方には、心底うんざりしている。シェアード・バリューの問題として、不快な真実とも向き合うべきだ」(ディエヴァ氏、要旨翻訳)

6. 政策提言・サイバーセキュリティ・「危機の渦中で動く勇気」
コール氏は、米国の撤退とLDP・高市政権下での軍備拡張シフトが、日本の民間セクターの社会インフラ投資を、これまで以上に重要なものにすると論じました。
「LDP(自民党)、特に高市が掲げる軍備拡張路線で、国家資源はますます軍事に吸収される。だからこそ、民間セクターが社会インフラに資金を出すことが、これまで以上に重要になる」(コール氏、要旨翻訳)
その上で、日本の民間資本を社会的インパクト投資に向ける最大の障壁を、コール氏はこう描写しました。
「カリスマ的なCEOが自分の小さな財団でやっている例はある——だが、それはあくまで滴り落ちる程度(trickle)。日立や三菱に行けば、わずかな資金を得るのに2年かかる。あと一歩のところで、担当者が北海道に異動になり、振り出しに戻る」(コール氏、要旨翻訳)
ウクライナとの実務的協働の事例として、コール氏は日本のサイバーセキュリティ企業の取り組みを紹介。
「日本はサイバーセキュリティに弱い。ウクライナは世界一強い——4年間攻撃され続ければ、嫌でも上達する。私が関わっている日本サイバーディフェンス社は、キーウにオフィスを開いた。実践的な専門性が、そこにあるからだ」(コール氏、要旨翻訳)
「劇的な出来事の後にやってくる触媒的資本では遅い。困難な渦中にコミットする勇気——これからの時代、この勇気にこそ価値が宿る。平和になれば、誰でも参入する」(コール氏、要旨翻訳)

7. 「日本に最も変えてほしい一点」——3者の最終発言
モデレーターから「今後3〜5年で、日本に最も変えてほしい一点は?」と問われ、3者の回答はそれぞれの哲学を凝縮していました——渋澤氏:「組織内の『ジェダイの騎士たち』(変化を推進する人材)に、動く自由を与えてほしい。触媒的資本は、それを動かす『触媒的人的資本』なしには展開されない」。コール氏は英語で一言——「税制インセンティブ。非常にシンプル」(原文:“Tax incentives. Very simple.”)。ディエヴァ氏:「対話を重ね、互いの言語を学び、共通の理解にたどり着くこと——これは常に相互的なものだ」。
渋澤 健(Ken Shibusawa)氏 プロフィール
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役 | コモンズ投信株式会社 取締役会長 | 株式会社&Capital 代表取締役CEO
1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドのムーア・キャピタル・マネジメントに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を設立。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。2023年1月に株式会社&Capital を設立し、代表取締役CEOに就任。「論語と算盤」経営塾主宰。2025年6月に、株式会社九州フィナンシャルグループ取締役および株式会社セブン銀行の社外取締役に就任。ブランズウィック・グループ シニアアドバイザー、ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン シニアアドバイザー、経済同友会幹事・中東アフリカ委員会共同委員長、東京大学総長室アドバイザー、NNHK国際放送番組審議会委員長。Triple I for Global Health共同議長、GSG国内諮問委員会委員長、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」構成員、経済産業省「健康経営推進検討会」委員。著書に『渋沢栄一 100の訓言』、『SDGs投資』、『渋沢栄一の折れない心をつくる33の教え』、『銀行員のための「論語と算盤」とSDGs』、他。
イェスパー・コール(Jesper Koll)氏 プロフィール
マネックスグループ&Japan Catalyst Fundエキスパートディレクター
マネックスグループ、ジャパン・カタリスト・ファンド エキスパート・ディレクター 1986年に来日して以来、日本への投資と研究を続けている。過去20年にわたり、米国の投資銀行であるJPモルガンおよびメリルリンチにおいてチーフストラテジストおよび調査部長を務め、常に日本のトップストラテジスト/エコノミストの一人として活躍。現在は、マネックスグループと日本カタリストファンド(日本初の個人投資家向け企業参画・活動型ファンド)のエキスパート・ディレクターを務めている。その分析力と洞察力から、小池百合子東京都知事の諮問チームをはじめ、いくつかの日本政府や企業の諮問委員会の委員を務めている。イエスパー・コルはエコノミスト、エンジェル投資家、パトロンであり、日本オプティミストである。
アナスタシア・ディエヴァ(Anastasiia Dieieva)氏 プロフィール
CEO、トカレフ財団
アナスタシア・ディエヴァは、Tokarev Foundation Ukraineの最高経営責任者(CEO)です。同団体は、戦時下におけるウクライナのテックエコシステムのイノベーションと構造改革を推進する先駆的な慈善組織です。同財団はテック慈善活動の新世代を体現しており、テクノロジーとデータ主導のアプローチを活用して教育・医療・コミュニティの強靭化を促進しています。同財団は、女性起業家向けSTEM促進、HealthTechイノベーション、数学教育、ウクライナの遠隔地の学生向けDIYラボ設立など、EdTech・HealthTech分野の革新的プロジェクトを通じて、人材育成と社会のポジティブな変革を支援しています。2025年現在、Tokarev Foundationはインパクトファイナンスとテクノロジーを活用した慈善活動の最前線に立ち、従来の助成金提供を超えて、ウクライナのコミュニティと起業家を支える持続可能なエコシステムの構築に取り組んでいます。アナスタシアは10年以上にわたり行政改革をリードしてきました。ウクライナ内務省副大臣(2016〜2017年)として、同国のパトロール警察の変革を主導し、省レベルでのジェンダー平等政策の導入を推進しました。また、国連ウィメンが支援するHeForSheムーブメントのウクライナ国家コーディネーターを務めました。アナスタシアは、ウクライナがテック大国として台頭する中、逆境においても生き残るだけでなく前進できるよう、コミュニティのエンパワーメントに貢献し続けています。
ティム・ケリー(Tim Kelly)氏 プロフィール(モデレーター)
ロイター通信 シニア特派員
ティム・ケリーは、東京を拠点とするロイター通信の特派員。防衛、国家安全保障、地政学、半導体、日本のテクノロジー産業を取材。日本の防衛力拡大、日米防衛関係の深化、アジア太平洋地域における米中間の戦略的競争の激化などを報じてきた。最近の取材では、日本の過去最大の防衛費、次世代戦闘機開発への取り組み、東アジア全域で進行中の半導体サプライチェーン再編などを扱う。ロイター入社前は、フォーブス東京支局長を務め、ブルームバーグ・ニュースでは約10年間勤務。日本在住20年以上、日本の防衛・テクノロジー分野を取材する外国人特派員として最も長いキャリアを持つ一人。
関連リンク
・Tech for Impact Summit 公式サイト:https://tech4impactsummit.com/ja
・ソーシャス株式会社 コーポレートサイト:https://socious.io/ja
ハイライト映像
「Catalytic Funding & Impact Investment」パネル映像(YouTube):
https://www.youtube.com/watch?v=xkGzSLes8c0
メディア取材のお問い合わせ
本パネルの引用・写真・取材のお問い合わせは、Tech for Impact Summit 運営事務局(summit@socious.io)まで。
引用にあたっては、本リリースに掲載した発言を、出典「Tech for Impact Summit 2026『Catalytic Funding & Impact Investment』パネル(2026年4月26日、東京・紀尾井カンファレンス)」明記の上、そのままご利用いただけます。なお、本パネルは英語で実施されており、本リリース中の各登壇者の発言は、日本語に要約・翻訳したものです(一部、英語原文の逐語訳)。
Tech for Impact Summit について
Tech for Impact Summit(T4IS)は、ソーシャス株式会社が2023年から東京で主催する、テクノロジーと社会的インパクトの交差点を扱う招待制エグゼクティブサミットです。SusHi Tech Tokyo の公式パートナーイベントとして開催され、ビジネス・政策・文化の各領域のリーダーが、人類が直面する最も緊急な課題への対応を議論しています。

