三井住友トラスト・資産のミライ研究所が、勤務者のファイナンシャル・ウェルビーイングに関するアンケート結果を公表
三井住友信託銀行株式会社のプレスリリース
三井住友信託銀行株式会社が設置している「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」(所長:丸岡 知夫)(以下、ミライ研)では、2024年1月に実施したアンケート調査を基に、「働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング」に関する分析結果を、12月にレポートとして公表しました。
【ポイント】
1.金融資産があればファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)度は上がるのか?
●保有する金融資産が多いほど「FWB度が高い」人が多い。一方で、金融資産が少なく(多く)ても「FWB度が高い(低い)」人が一定割合存在する
●年代が上がるにつれて金融資産額は増える傾向にあるが、FWB度は年代による差があまり見られない
2. FWBを高めるための金融資産額の目安は、年収の何倍か?
●資産形成が年収に対しどのペースで実践できているか、“資産の年収倍率(=現在の保有金融資産が年収の何倍か)”のスコアを分析
●「FWB度が高い」と答えた人の“資産の年収倍率”は、50代に向けて約3~5倍
1.お金に関する充足度(ファイナンシャル・ウェルビーイング)とは?
日本において、ファイナンシャル・ウェルビーイング(以下、FWB)に関する取り組みが進んでいます。
2024年4月には、国民の健全な資産形成を推進する目的で、金融経済教育を普及させていく役割を担う機構(金融経済教育推進機構(J-FLEC))が発足し、同年8月から本格的に活動を開始しています。機構のミッションには、「私たちは、一人ひとりが描くFWBを実現し、自立的で持続可能な生活を送ることのできる社会づくりに貢献します。」と謳われています。
注目が高まっているFWBですが、これは「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」を指し、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)の主要な要素となっています(FWBの詳細は、こちらのコラムをご覧ください)。
「FWBな状態」になるには、単に資産があればよいのでしょうか。
ミライ研では、本年1月に全国の18歳~69歳の1万人にFWBに関するアンケート調査を実施しました。今回はそのうち、勤務者(会社員、公務員・団体職員、派遣・契約社員、パート・アルバイト)の約6千人を対象に「働く人のFWB」の実態を分析しました。
※FWB度の算出方法は、下段に掲載しているレポート本編をご覧ください。
2.金融資産がある人の方が、「FWB度が高い」人が多い
まず、保有金融資産別にFWB度が「高い」「中ぐらい」「低い」人の人数分布を確認してみます。すると、保有金融資産が多い方が、FWB度が高い人の割合も高くなりました(図表1)。ただし、金融資産が少なくてもFWB度が高い人、金融資産が多くてもFWB度が低い人が一定割合存在することも、同時に分かりました。
【図表1】保有金融資産別 FWB度の人数分布
3.年代が上がれば金融資産額は増えるが、FWB度は上がらない
金融資産額は年代が上がるにつれて増える傾向にあります。(図表2)のとおり、20代以下は約8割が「500万円未満」であり、「1,000万円以上」の比率は1割未満ですが、60代においては約4割を占めていることが分かります。
では、保有金融資産が増えるにしたがってFWB度が高くなるのであれば、金融資産額が多い高年齢層になるほど「FWB度が高い」人が増えるということでしょうか。
【図表2】年代別 保有金融資産額
FWB度を年代別で分析してみると、金融資産額と年代は、明確な相関はなさそうです(図表3)。それどころか、40代・50代の所得が多いと想定される層の方が、FWB度に課題がありそうです。これはなぜでしょうか。
40代・50代は、特にライフイベント(例えば住宅購入・子どもの教育・親の介護・老後生活への備え)が多い時期と重なります。これらの世代のFWB度が相対的に低いのは、単に資産があることよりも、待ち受けているライフイベントなどを想定した際に、そのイベントを乗り越えられるだけの資金準備ができているか、という不安が大きくなっている時期とも推察されます。
【図表3】年代別 FWB度の人数分布
4.FWB度を高めるためには、金融資産額を年収の何倍保有すればばよいか
では、将来のライフイベントなども踏まえて、どの程度の資金準備があると「十分だ」と感じるでしょうか。
収入が多い人は資産形成も順調に進みそうですが、一方で生活水準も高く支出も多い傾向があります。そのため、本調査では、保有金融資産が年収の何倍程度準備できているかを“資産の年収倍率”と定義し、その水準を分析しました(図表4)。
【図表4】“資産の年収倍率”の考え方
まずは、FWB度別の「平均値」を確認してみます。(図表5)のとおり、FWB度が高い人も低い人も年代が上がるにしたがって“資産の年収倍率”は増えていきますが、その増加幅はFWB度が高い人の方が大きいことが分かります。また、FWB度が高い人ほど“資産の年収倍率”が高く、50代に向けて年収の約5倍の資産を保有していることが確認できます。
【図表5】FWB度別の“資産の年収倍率” ~平均値~
平均値は、一定の高水準者(資産家など)による影響が考えられるため、「中央値」も算出しています(図表6)。こちらも同様に、FWB度が高い人は50代に向けて資産所得倍率が上がり、50代に向けて年収の約3倍の資産を保有しています。一方で、FWB度が低い層は50代までのどの年代でも、“資産の年収倍率”が1倍割れ、つまり金融資産が年収額よりも低い状態のままであることが分かりました。
【図表6】FWB度別の“資産の年収倍率” ~中央値~
5.まとめ
「家計資産」としては、金融資産だけでなく自宅などの不動産もありますし、世帯構成(単身、二人以上世帯など)も金融資産の形成局面においては変数要因となりますが、本レポートにおいては、「勤務者」に注目し、「FWB度が高い人は50代に向けて、自身の収入の約3~5倍の金融資産を準備している」ことを示唆しました。
自身が思い描く将来の生活イメージは一人ひとり異なりますが、大きなライフイベントに備えるには、計画的な資金準備が求められます。一般的には、現在の「収入」や「資産状況」によって生活水準がある程度規定され、例えば収入が多い人は、生活水準も高くなりやすいため、「思い描く将来の生活」を実現するには、それに見合う水準の資金準備が必要といえます。
一人ひとりが自分らしい「ライフプラン・マネープラン」を立てたうえで、それを実現するための「計画的な資産形成」に取り組むことが重要と思われます。
「ファイナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)より
働く人のファイナンシャル・ウェルビーイング 向上のカギは“資産の年収倍率”
を資産のミライ研究所のHP(https://mirai.smtb.jp/category/report/2742/)に掲載しています。
本レポートにおいて、「ファイナンシャル・ウェルビーイング度」の定義を含めた調査全編をご覧いただけます。
【本件調査概要】
(1)調査名:「ファイナンシャル・ウェルビーイングと金融リテラシーに関する意識と実態調査」(2024年)
(2)調査対象:全国の18~69歳 ただし関連業種(金融、調査、マスコミ、広告)従事者を除く
本レポートでは、職業について、「会社員(一般社員)」「会社員(管理職)」「公務員・団体職員」「派遣・契約社員」「パート・アルバイト」と回答した者を対象に分析
(3)調査方法:WEBアンケート調査
(4)調査時期:2024年1月
(5)サンプルサイズ:6,091
■記事内容、アンケート結果に関する照会先
三井住友信託銀行 三井住友トラスト・資産のミライ研究所
E-MAIL:mirai@smtb.jp