三井住友トラスト・資産のミライ研究所が、繰上返済についてのアンケート結果を公表
三井住友信託銀行株式会社のプレスリリース
三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)では、2024年1月に実施したアンケート調査を基に、「住宅ローンの繰上返済」について分析した結果を、10月にレポートとして公表しました。
【ポイント】
住宅ローン繰上返済の実態
●2013年までの借入れにおいては、「借入れ時から10年前後」に繰上返済のピークがあったが、直近10年間(2014年~2023年)の借入れでは、上記ピークが大きくは見られず、繰上返済に対する取組み姿勢の変化が伺える
●繰上返済をした理由として、「早期返済起点」「心理的起点」の選択割合は、直近10年で大きく減少する一方で、「できるだけ早めに完済し、資産運用に充てる資金を増やしたかったから」の選択割合は増加
繰上返済とファイナンシャル・ウェルビーイング度の関係性
●繰上返済経験の有無別にファイナンシャル・ウェルビーイング度を確認すると、「繰上返済経験あり」の方が「繰上返済経験なし」よりもファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い傾向
●ただし、「将来の生活設計・資金計画の検討の有無」を勘案すると、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」のファイナンシャル・ウェルビーイング度は、「繰上返済経験なし×将来の生活設計・資金計画あり」よりも劣後しており、「計画的な繰上返済」こそがファイナンシャル・ウェルビーイング度に貢献しうることが伺える
●実際、「住宅ローン返済の負担感」や「資産形成との両立」においても、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」は上記同様に劣後している
1. 直近10年で、住宅ローンの繰上返済の取り組み姿勢に変化
住宅ローンを借り入れた時期別に「繰上返済をしたことがあるか否か」についてお伺いしたのが、【図表1】です。住宅ローンを借り入れた時期が1993年以前では64.4%、1994年~2003年では65.2%が繰上返済をしたことがあるという結果となりました。一方で、2004年~2013年→2014年~2023年と借入時期が令和に近づくにつれて、「繰上返済をしたことがある」の割合が徐々に減少していることが分かりました。
【図表1】住宅ローンの繰上返済経験有無(住宅ローン借入時期別)
ただし【図表1】だけでは、借入期間が長くなるほど、結果的に繰上返済をしたことがある人も増える、とも読めます。
そこでさらに、住宅ローンの繰上返済をどのタイミングで行ったかについても複数回答可にてお伺いしたところ、【図表2】の結果となりました。住宅ローンを借り入れてから10年前後に目を向けると、1993年以前の借入れでは29.1%、1994年~2003年では34.5%、2004年~2013年では27.8%と、繰上返済をするピークがあり、その後は徐々に減少する“クジラ型”である一方で、2014年~2023年の借入れをみると、10年前後には大きなピークのない“ヒラメ型”であり、繰上返済に対する取り組み姿勢の明確な変化が伺えました。
【図表2】住宅ローンの繰上返済時期(住宅ローン借入時期別)
2. 住宅ローンの繰上返済をする理由、「早く返したい」から「資産形成のため」へ
次に、住宅ローンの繰上返済をした理由についてお伺いしました。理由として、①“利息を減らしたい”や“返済期間を短縮したい”、“当初の返済スケジュールよりも効率的に減らしたい”といった「早期返済起点」の理由、②“「住宅ローン」の心理的負担から早めに解放されたい”、“できるだけ早めに完済し、自身の完全所有物にしたい”といった「心理的起点」の理由は、足元10年(住宅ローンの借入時期:2014年~2023年)で大きく減少していることが分かりました。
一方で、「できるだけ早めに完済し、資産運用に充てる資金を増やしたかったから」の選択割合が増加しており、住宅ローンの返済と資産形成の両立を意識している層が増加していることが、結果から伺えました。
【図表3】住宅ローンの繰上返済をした理由(住宅ローン借入時期別/複数回答可)
3. 「計画的な」繰上返済は、ファイナンシャル・ウェルビーイング度向上に寄与
住宅ローンの繰上返済をすることで、毎月の返済額が減少する(もしくはなくなる)、借入期間が短縮される、将来支払う予定であった利息額が減少するなどの効用が生じることが考えられます。では、これらはファイナンシャル・ウェルビーイング度※向上に寄与するのでしょうか。
※「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは、自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態を指す。ファイナンシャル・ウェルビーイング度は、本アンケート調査の回答内容に応じて算出した指標。具体的な算出方法については、本レポート3ページ記載の「調査概要」ご参照。
繰上返済経験の有無別にファイナンシャル・ウェルビーイング度を確認したところ、「繰上返済経験あり」では「高い」が16.9%、「繰上返済経験なし」では「高い」が10.3%と、前者の方が「ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い」人が多いことが分かりました【図表4】。
【図表4】ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布(繰上返済経験の有無別)
では、繰上返済を行ってなるべく早めに返済してしまうことがファイナンシャル・ウェルビーイングの観点からは取るべき選択肢なのでしょうか。
先ほどの【図表4】に、「将来の生活設計・資金計画についての検討の有無」を組み合わせて確認したところ、【図表5】の結果となりました。
【図表5】ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)
将来の生活設計・資金計画の検討有無、いわゆるライフプラン・マネープランの検討状況を勘案すると、ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人の割合は、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では13.2%となっており、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり(20.7%)」だけでなく「繰上返済経験なし×将来の生活設計・資金計画あり(16.1%)」よりも劣後する結果でした。
実際に、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり」の人と「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」の人の繰上返済理由を確認したところ差があり、差が大きい項目としては、前者は「外部環境」「返済原資」「他目的」起点の客観的な理由、後者は「早期返済」「心理的」起点といった主観的な理由があげられました【図表6】。
【図表6】住宅ローンの繰上返済をした理由(複数回答可)
さらに、住宅ローン返済の負担感や資産形成との両立状況について確認をしたところ【図表7、8】の結果でした。
【図表7】住宅ローン返済の負担感(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)
【図表8】住宅ローン返済と資産形成の両立について(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)
ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布と同様、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では、住宅ローン返済を負担に感じる方が多く、資産形成と両立のできている人は少ないことが分かりました。
繰上返済を行うことで、返済の負担感や将来支払う利息額の減少が期待できます。一方で、手元資金は減ってしまうので、繰上返済後に、例えば子どもへ結婚費用を援助したい、などまとまった資金が必要となるイベントを想定している場合には慎重な検討が必要です。
またそうでなくとも、趣味への支出、けがや病気といった万が一への備えや自宅の維持管理・修繕費といった費用など、支出として見込まれるものが想定されるはずです。繰上返済に回したお金は、当然ながら取り戻すことはできませんので、「ライフプラン・マネープランの確認」と「繰上返済をすべきか否かの判断」をする二刀流の姿勢が大切です。
上記の記事に加え、より多くのデータをまとめた資産のミライ研究所のアンケート調査結果
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)より
「健全な借入れ」をライフプランに位置付ける
-ファイナンシャル・ウェルビーイング度を高める、
”二刀流”の繰上返済とは?-
を資産のミライ研究所のHP(https://mirai.smtb.jp/category/report/2557/)に掲載しています。是非、ご覧ください。
<参考>三井住友トラスト・資産のミライ研究所 1万人への独自アンケート調査(第5回)
【調査概要】
(1)調査名:「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)
(2)調査対象:全国の18~69歳 ただし関連業種(金融、調査、マスコミ、広告)従事者を除く
(3)調査方法:WEBアンケート調査
(4)調査時期:2024年1月
(5)サンプルサイズ:10,948
【記事内容、アンケート結果に関する照会先】
三井住友信託銀行 三井住友トラスト・資産のミライ研究所
E-MAIL : mirai@smtb.jp