ライフネット生命保険株式会社のプレスリリース
2024年8月、エーザイ株式会社代表執行役専務COO(兼)チーフグロースオフィサーの内藤景介さんと当社代表取締役社長・森によるスペシャル対談を実施しました。
少子高齢化の進む日本。団塊の世代が75歳以上となり、それに伴う医療や介護などの課題が生じるとされる「2025年問題」も話題になっています。そんな中で増加が見込まれる認知症も、日本の抱える社会課題のひとつ。認知症当事者のQOL(Quality of Life)低下や介護者の経済的負担増加などといった問題も浮き彫りになりつつあります。
そうした社会課題に取り組むため、エーザイとライフネット生命は2022年8月に認知症領域等での協業に向けた資本業務提携契約を締結。2024年4月に発売された認知症保険「be(ビー)」の共同開発や、認知症のリアルに向き合うイベント「認知症とともに生きる2024」の開催など、生活者への認知症啓発について取り組んできました。
9月21日の「世界アルツハイマーデー」を前に、若きリーダー2人が認知症に関する取り組みと、目指す未来について語ります。
意識をアップデートし、新しいソリューションを根付かせる
森:「認知症とともに生きる2024」のイベントは大きな反響がありました。保険会社として新しい領域に向かっていることをたくさんのメディアに取り上げてもらい、御社と共同開発した、認知症や軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の早期発見・早期治療をサポートする認知症保険「be」の販売も良いスタートを切ることができました。
実は、販売を開始する前は不安もあったんです。軽度認知障害(MCI)や保障について、みなさまの理解をどれくらい得られるだろうかとドキドキしてローンチしました。ふたを開けてみると、力を入れた軽度認知障害(MCI)の保障を手厚くしているご契約者さまが目立つことがわかり、ひとまずホッとしています。御社は4月から夏に至るまで、認知症に対する関心の高まりやムーブメントの手応えは感じましたか。
内藤:医療用医薬品の領域で、4月のイベントのような経験はこれまでになかったので、非常に勉強になりました。話題性が高く、本当にキャッチーでしたね。とりわけ、なかやまきんに君のパワーはすごかったです(笑)。認知症や軽度認知障害(MCI)の理解を浸透させる上で効果的なイベントになったと思います。
森:新しいソリューションを根付かせるには、従来の意識をアップデートする必要がありますよね。私たちも認知症への理解を広げていかなければならないという課題意識を持っていますが、御社では現在、どのようなことに取り組まれていますか。
内藤:カテゴリーとしても新しいので、認知症に対する意識のアップデートにはまだ時間がかかると見込んでいます。逆にいえば、非常に伸びしろがある分野であるということ。製薬会社という立場上、エンドユーザーから直接の意見をもらうことはなかなか難しいのですが、医師のみなさんを通じてさまざまな声が寄せられています。
森:認知症に対する医師のみなさんの認識や捉え方も変わってきていますか。
内藤:私たちは認知症の治療薬の創出にとどまらず、関連会社のテオリアテクノロジーズ(Theoria technologies)を中心としたデジタル等のソリューションの開発・提供や、他産業・アカデミア・自治体との連携による「認知症エコシステム」の構築に取り組んでいます。
このエコシステムでは専門医や地域のかかりつけ医など、医師の役割が非常に重要となりますが、治療薬ができる前とできた後とでは、医師が患者さんに提供できる情報の質や幅が大きく変わってきたと考えています。
森:認知症の社会課題を克服していく上で、医師の役割は本当に大きいですね。患者さんにとっても、受け取れる情報の質と幅が広がり、初期のタッチポイントで専門的なソリューションにつなげることが可能になってきているんですね。
内藤:そうなんです。薬剤に関しても4月以降、さまざまなデータが出てきており、早く投与した方が効果が高い、治療は中断せず、長期で投与した方が効果は高いなどのデータがすでに取れています。患者さん一人ひとりが適切なタイミングで適切な情報を取得できる時代が来ていること、さらに早期の治療が化学的に根拠のあるものだと証明されていることは強く訴えていきたいと思います。
森:金融業界では、お客さまと金融会社の間にFP(ファイナンシャルプランナー)が入って、家計の相談に乗ることがあります。FPの方々の理解を促進するために、当社でも勉強会を実施しましたが、先日の勉強会では4月のイベントにも来ていただいた岩田淳先生(東京都健康長寿医療センター 副院長・脳神経内科部長)をお招きしました。
そこで治療薬の話や軽度認知障害(MCI)や認知症の症状をご説明いただき、大きな反響がありました。いろいろな方を通じて発信すれば認知症への理解は浸透するのではないでしょうか。
内藤:確かに、間に立って情報や気づきを与える、そしてその後に適切なところにナビゲートするためにも、金融に関する相談や医療への導線、道案内ができる方の存在は重要ですね。医療だけでは金融の専門的な話については限界がありますから、総合的なニーズに応えていく必要がありそうです。
「予防」と「共生」は相反しない
森:私はいま、認知症について自分の言葉で話せるようになりたいと勉強をしているところなのですが、そもそも、軽度認知障害(MCI)という概念があまり知られていないのはなぜなのでしょうか。
当社の調査でも、認知症の介護を経験していない人のほとんどは軽度認知障害(MCI)について知らない、知識がないという結果でした。
内藤:真因を断定することは難しいですね。軽度認知障害(MCI)は連続した進行状態の中の一部をさすもので、直感的に理解しづらいワードだと思います。
認知症介護経験のない人のうち、軽度認知障害(MCI)を「知らない」・「言葉を聞いたことがある程度」と回答した人が85.6%に上り、治療による回復の可能性についても86.8%の人が「知らない」と回答している(出典:ライフネット生命「認知症に関する調査」2024年4月実施)
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あなたは、軽度認知障害(MCI)をご存じですか。
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あなたは、軽度認知障害(MCI)の段階で治療を開始すれば、健常な状態に回復する可能性があることをご存じですか。
軽度認知障害(MCI)とは
軽度認知障害(MCI)は認知症と診断される一歩手前の状態で、認知機能が健康な状態と認知症の中間の状態です。早期に発見し、適切な予防や治療を行うことで、約16%~41%の方は健康な状態に回復する場合や認知症の進行を遅らせられる場合があることがわかっています。
森:例えばがんの場合は、ステージ1、2など段階を示す数字があるので、ある程度イメージしやすいですよね。軽度認知障害(MCI)の場合には、そのような表現はなじまないのでしょうか。
内藤:おっしゃるとおり、がんの進行はバイオマーカー診断の発展によりシンプルな形で表現が可能になりましたが、軽度認知障害(MCI)や認知症の診断は今まさに様々なバイオマーカー探索と開発が進展しており、今後がんに近いような形での表現も可能になる時代が近づいていると考えます。なお、医療従事者でない方にとって、その進行度合いについて理解するのは少し難しいかもしれません。
森:なるほど。
内藤:認知症は社会的なインパクトが大きい疾病で、本人にも周りの人にも影響を与えます。ソリューションの重要性を見出して治療に参加していただく方はアーリーアダプター(早期導入者)であるといえます。情報に対するアンテナ感度や責任感が高い方ですね。当社としては、そのように実際にアクションを起こしている方々に対して、どのようなソリューションを提案できるのかを検討しています。
森:一気に社会の全員への浸透を目指すのではなく、まずは感度が高い人にターゲットを絞っていくわけですね。当社も認知症保険「be」の販売を開始してから契約が増えていく中で、データがたまっていますから、ご契約者さま向けの調査など、やってみると気づいていないことが見えてくるかもしれません。ぜひ一緒に設計できたらと思っています。
すでにご契約されている方も、認知症のすべてを理解して契約しているとは限らないので、もしかしたらまだまだ知らないことがあるかもしれない。
内藤さんは認知症や軽度認知障害(MCI)について、どのあたりに誤解が生まれやすいと思われますか。
内藤:認知症を「予防する」ことは「共に生きない」ことを選ぶことになる、という誤解があるように感じています。「予防」の概念は「共生」と相反するのではなく、認知症を早く知って対応することは「共生」にも寄与します。「予防」とは、社会インフラへの依存を減らし、本人の自立をサポートするソリューションです。決して「共生」を否定するものではありません。
森:これからは、認知症の進行をゆるやかにして「共生」をしていく、という道も選べるようになったわけですね。
内藤:そうです。治療を受けるタイミング次第で、進行はゆるやかになっていきます。治験レベルの話ではありますが、発症そのものを遅らせたり、改善させたりする兆候も見られます。どのタイミングで自分のことを知り、治療に参加するかでその後が変わってくるんです。
森:今後、私たちも認知症保険の提供者として、新しいソリューションや認知症の理解促進を進めていきますが、御社が取り組んでいることやこれからの計画についても教えていただけますか。
内藤:我々が持つ認知症に関する情報をポータルサイトで発信しています。サイトを通じたコミュニケーションのほか、4月のイベントのように、エンドユーザーに対して直接情報を伝えられる形を考えたいですね。ライフネット生命さんは契約されている方々とダイレクトにつながっていますから、双方で情報発信を行ってソリューションの価値を正しく伝えていきたいと思います。
森:ありがとうございます。個人的にも少数のグループ、例えば20人や30人規模で話をすると、内容が深く伝わるなという実感があります。少人数で深く狭く伝えていく活動と、マスとして浅く広く発信することの両方をやっていく。それが当社に期待されている役割だと考えています。
患者の選択肢が増えることが会社の事業継続につながる
森:最後に改めて、御社の「認知症エコシステム」の構想についてお聞きしたいです。御社がこの構想を思い立った背景には、何か原体験があったのでしょうか。
内藤:認知症治療薬は新しいカテゴリーの製品ですから、価値をどう理解していただくかが重要です。当社では、かねてより創薬だけではなくソリューションを世の中に提供することが認知症という社会課題の解消には必要と考えていました。
理論的には、製薬会社が薬剤以外のソリューションを競合とみなしてしまうと社の利益に反するのではないかという意見が出たり、その他のソリューションへの道をふさごうとしたりするような動きも発生しかねません。
しかし、それはエーザイのヒューマン・ヘルスケア理念に反します。患者さんの選択肢が増えることが会社の事業継続とつながっていないといけない。社会的にインパクトがある薬剤だからこそ、一社の利益だけを追求するのではなく、他領域と連携してエコシステムを作ることが最も重要だと判断しました。
森:「予防」と「共生」が相反するように誤解されてしまう現象と似ていますね。「予防」と「共生」が二項対立ではないように、エコシステムの構築は企業の利益を毀損するわけではない。患者さんに多くの選択肢を提供することが企業の発展につながっていくんですね。そのような発想は、御社のカルチャーやフィロソフィーから生まれているものなのですか。
内藤:弊社は創業83年で、製薬会社としては決して古くはありません。むしろ若い方です。業界では合併したり、外資の傘下に入ったりして急成長する企業もあります。そのような施策が悪いとは思いませんが、弊社ではとっていません。
自社品の比率が昔から非常に高く、内部のイノベーションだけでいまの規模をつくりあげてきました。社会的にインパクトがあって難度が高いものにチャレンジしてきた歴史があります。いままでになかったことをやって貢献の幅を大きくしてきました。認知症治療薬もそのひとつです。
森:認知症治療薬はエーザイ特有の理念やスピリットから誕生した薬剤なんですね。さまざまな領域と連携するエコシステムの中で、特に重要と思われる領域はありますか。
内藤:どの領域も重要ではありますが、患者さんやご家族に金銭的なインパクトを理解してもらうことは必須ですから、御社のような金融や保険会社とのコラボは重要ですね。また、認知機能の低下により運転事故などのリスクが高まるので、自動車関連産業とのコラボも重要視しています。
森:医療費や介護費用だけではなく、インフォーマルケアコスト(家族や近親者が無償で行う介護にかかるコスト)もありますから、金銭的には大きな問題です。幸い、“自分ごと化”しやすい領域だからなのか、認知症に関する知識や介護の経験を発信する方も増えてきました。当社としても、情報がもっと伝わるように整理していきたいと思います。
内藤:ありがとうございます。医療の技術も日々進化していて、新しいバイオマーカーを活用した診断技術も研究されています。御社とのコラボレーションの上でも、医療技術や社会環境に連動してアップデートしていくことが重要だと考えています。
森:技術が進化すると保険のあり方も変わりますね。当社の認知症商品をはじめ、診断されたら給付金を支払う仕組みとなっているものがほとんどですが、診断のプロセスも変わってくるでしょう。金融商品も変わっていかないといけない。我々の規模はまだ小さいですがスピード感はあるので、腕の見せどころかなと思っています。
御社はソリューションのアップデートを進め、私たちは御社に引き離されずに食らいついていく。そしてともにアップデートできれば、ずっと一番前を走れるのではないでしょうか。これからもぜひコラボレーションを進めていきたいと思います。ありがとうございました!
<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子
ライフネット生命について URL: https://www.lifenet-seimei.co.jp/
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