【報告書公表】石炭火力発電投資の事業リスク分析:エネルギー転換期における座礁資産リスクの顕在化

自然エネルギー財団のプレスリリース

公益財団法人 自然エネルギー財団は、この度、報告書「石炭火力発電投資の事業リスク分析:エネルギー転換期における座礁資産リスクの顕在化」を公表いたしました。

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石炭火力発電投資の事業リスク分析

エネルギー転換期における座礁資産リスクの顕在化

表紙

東日本大震災以降、原子力発電の稼働停止による電力不足を補うことなどを理由に掲げ、約2,100万kWもの石炭火力新増設計画が発表されました。これまでに、約700万kWの建設計画が中止またはLNGやバイオマス発電等へ計画変更されましたが、未だに建設中、または着工前の新増設プロジェクトが20基、1,100万kW以上もあります。

これらのプロジェクトの多くは、80%から90%という高い設備利用率を想定していますが、電力広域的運営推進機関の推計によっても、2028年の全国平均の設備利用率は70%以下になります。本報告書では、電力需要と設備利用率の低下、自然エネルギー発電の増加など市場環境が変化するとともに、気候変動対策の強化が進む中で、これらの新増設プロジェクトが採算割れを引き起こし、座礁資産化するリスクが大きいことを明らかにしています。

ドイツやオランダでは新設直後の石炭火力発電所が市場環境や政策環境の変化で、運転停止に追い込まれる事例も生まれています。自然エネルギー財団は、本報告書が今後の日本のエネルギー政策の転換と電力ビジネスの発展に寄与する一助となることを期待します。

<主な調査結果>

1. 電力広域的運営推進機関(OCCTO)によれば、2028年までに最大電力需要が2018年比で3.7%減少する一方で、石炭火力の設備容量は20%増加する。石炭火力の設備利用率は全国平均で73.2%から69.5%へ低下する。現在建設中又は計画中の石炭火力発電の多くは、設備利用率の想定を80%から90%と見積もっているため、OCCTOの見通しに照らしても想定が外れて事業リスクが高まる懸念がある。

2. 石炭火力発電投資の実施に必要な内部収益率(IRR)は、最低8%、一般には10%とされる。新設の石炭火力発電投資(130万kW USC発電方式)をモデルに、設備利用率85%、1kWhあたり9.5円の売電単価、石炭1トン11,000円の燃料価格、稼働年数40年、炭素税未導入、という前提の基本設定ケースで試算すると、IRRは8.7%になった。今後の市場環境、政策の動向を考慮すると、これらの前提がそのまま維持される可能性は小さく、石炭火力発電投資は軽視できない事業リスクを抱えている。

3. 基本設定ケースの想定のうち、設備利用率を2018年の全国平均73%と設定するだけで、IRRは3.9%に低下する。設備利用率は85%のままでも、売電単価が8.0円/kWhまで低下すれば、IRRは3.3%に低下する。設備利用率73%、売電単価8.0円では、-3.5%となる。

4. 直近では、LNG価格の下落により、石炭との価格差が逆転して安価な電源としての石炭火力の優位性が低下する状況も発生している。今後もこうした状況が生ずれば、ガス火力の設備利用率が上昇する反面、石炭火力の設備利用率はさらに低下する。

5. 気候変動対策の強化にともなう政策的要因も石炭火力発電投資の事業リスクを高める可能性がある。設備利用率85%を前提としても、CO₂排出量1トンあたり2,000円の炭素税が導入されると、IRRは2.8%に低下する。設備利用率73%では、-4.5%になる。

6. 今後の石炭火力発電投資には、多くの事業リスクが存在する。電力需要の低下、自然エネルギーのコスト低下、設備利用率の低下、電力卸売価格の下落、石炭価格の上昇、気候変動対策による規制強化等の要因により、現在進められている新設プロジェクトは、座礁資産化する大きなリスクに直面している。

<目次>

概要

1.電力需給の中長期見通し

2.石炭火力発電の新増設計画の推移

3.石炭火力発電の収益構造

4.新設石炭火力発電の事業採算性分析

(1)新設石炭火力発電の事業採算性シミュレーション

(2)設備利用率の低下

(3)売電単価の動向

(4)石炭の価格変動      

(5)政策変動要因(稼働年数/炭素税)

(6)シナリオ分析

まとめ

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