イヌの致死性遺伝性疾患『変性性脊髄症(DM)』撲滅に向けさらに前進

遺伝子検査の有用性を示唆~アニコム社員著の研究論文が英国学術誌に掲載

アニコム損害保険株式会社のプレスリリース

アニコム ホールディングス株式会社(代表取締役 小森 伸昭、以下 当社)の子会社であるアニコム パフェ株式会社およびアニコム先進医療研究所株式会社では、イヌの致死性の遺伝性疾患である変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy :DM*1)の原因変異に対する研究(以下 本研究)を通じて、大規模な遺伝子検査の実施前後で原因変異の頻度が減少するとともに、原因変異を持たない個体や異なる系統の個体が繁殖に用いられるようになったことを明らかにしました。この成果は、遺伝子検査をブリーディングに活用することで近親交配を避け、回避できる遺伝性疾患のリスクを低減する、すなわち適切なブリーディングが行われていることを示唆しています。
本研究の成果は、英国の出版社Oxford University Pressが刊行する学術誌『Genome Biology and Evolution』にて、2023年12月18日にオンライン公開されました。

▲DMに罹患したコーギー(ミュウモちゃん、2021年DMにより逝去)▲DMに罹患したコーギー(ミュウモちゃん、2021年DMにより逝去)

【原論文情報】

掲載誌:Genome Biology and Evolution

論文リンク:https://academic.oup.com/gbe/advance-div/doi/10.1093/gbe/evad231/7477874

DOI:10.1093/gbe/evad231

原題:Negative selection on a SOD1 mutation limits canine degenerative myelopathy while avoiding inbreeding.

著者名:Hisashi Ukawa, Noriyoshi Akiyama, Fumiko Yamamoto, Ken Ohashi, Genki Ishihara, Yuki Matsumoto.

  • 本研究の概要と成果

現在イヌにおいては、病気の原因となる遺伝子変異が数百種類も知られています。これらの遺伝子変異の蔓延を最小限に抑えるには、遺伝情報をもとにした繁殖管理が必要です。そのため近年、ブリーダー自身が申込むことができるDTC遺伝子検査*2が普及し始めています。当社グループでもこうした遺伝子検査サービスを提供しており(https://anicom-pafe.com/inspection/)、2017年から親犬への、2019年から子犬への大規模な遺伝子検査を実施しています。しかしながら、こうしたDTC遺伝子検査がイヌの集団全体の遺伝構造に与える影響は、これまでわかっていませんでした。

そこで本研究では、日本のウェルシュ・コーギー・ペンブロークにおいて、DMの原因の一つである遺伝子変異(リスク変異)の頻度の変化を2016年から2022年まで経時的に調べるとともに、子犬の遺伝子検査が開始された2019年と直近の2022年の集団のゲノムを比較することで、イヌの遺伝構造に対する遺伝子検査の影響を評価しました。

本研究ではまず、DMの原因の一つであるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)の遺伝子変異(c.118G>A (p.E40K))について合計5,512 頭を対象に遺伝子検査を行いました。その結果、この変異をホモで持つ個体の頻度は2016年には46.0%(287頭中132頭)であったのに対し、2019 年は 14.5%(657頭中95頭)、2022年には2.9%(820頭中24頭) にまで減少していました。

次に、2019年と2022年それぞれの、個体のゲノム全域の一塩基多型(SNP)に基づく集団分化解析により、SOD1 上のイントロンにおいて、最も高い遺伝的分化指数(FST*3)を持つ SNP が検出されました。これにより、2019年と2022年の集団の間で、ゲノム全域で最も違いが大きい領域がSOD1上に存在すること、そしてc.118G>A(p.E40K)の変異に負の選択圧がかかっていたことが明らかになりました。また、遺伝子検査の提供により、3年という短い期間でDMの遺伝的リスクを低減できたことが示されました。

                                      
さらに詳細にSNP分析を行ったところ、2019年と2022年の集団の間で近親交配のレベルに変化は見られず、また、2019年には見られなかったリスク変異を持たない他の系統由来のイヌが、2022年の集団に含まれていることが明らかになりました。これらの結果は、ブリーダーが遺伝子検査の情報を用い、DMリスクの低い個体を選択して交配させるとともに、近親交配を避けるために他の系統かつDMリスクの低い個体をブリーディングに用いてきたことを示唆しています。

  • まとめ

本研究の結果により、遺伝子検査を行うことで、致死性疾患であるイヌのDMの遺伝的リスクをわずか数年以内に軽減できる可能性が示唆され、DMの撲滅に向け前進することができました。

今後も当社グループでは、遺伝子検査サービスや様々な研究を通じて、獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。

 

【用語解説】

*1 DM:痛みを伴わず、ゆっくりと進行する致死性の脊髄の病気。後肢の麻痺から始まり、数年かけて徐々に前肢、呼吸筋の麻痺へと進行する。 最初に報告されたのはジャーマン・シェパード・ドッグだが、現在では多くの犬種で発生が報告されており、日本では近年、特にウェルシュ・コーギー・ペンブロークでの発生が多く見られている。

*2 DTC(Direct to Consumer)遺伝子検査:インターネット等を通じて、ブリーダーをはじめとする顧客に直接販売する遺伝子検査。

*3 FST:集団間の塩基配列の違いに関する指標の一つ。2つの集団間の遺伝的な分化の程度を、各集団の遺伝的多様性を考慮して定量化している。

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