「低酸素」「乳酸増加」条件下でがん臭気が増大することが明らかに

アニコム先進医療研究所株式会社のプレスリリース

アニコム先進医療研究所株式会社(代表取締役社長 河本 光祐、以下 当社)は、筑波大学医学部の菅澤威仁助教、ジーエルサイエンス株式会社(以下 ジーエルサイエンス)との共同研究(以下 本研究)を通じ、がん転移、悪性化の特徴ともいえる「低酸素」「乳酸増加」という条件下において、肺がん細胞(A549)ががん臭気を通常条件(通常酸素濃度、乳酸なし)よりも多く放出することを明らかにしました。将来的にはがん転移、悪性化と臭気放出にいたる代謝変化の解明につながることが期待されます。本研究成果はオンライン科学ジャーナル『Frontiers in Molecular Biosciences』に9月21日に公開されました。

<掲載論文>

掲載誌:Frontiers in Molecular Biosciences

論文リンク:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmolb.2023.1274298/full

DOI:doi.org/10.3389/fmolb.2023.1274298

原題: Hypoxia and lactate influence VOC production in A549 lung cancer cells

和訳: 低酸素と乳酸が肺がん細胞臭気合成に与える影響

責任著者: Takeshi Furuhashi

  • がんと臭気の研究背景

「がん患者から臭いがする」「疾患を臭いでかぎ分ける犬」という話を聞いたことがあるという方もいるのではないでしょうか。過去の研究により、いくつかのがん臭気物質が、がん細胞における脂質二重膜上での脂質過酸化反応によって生じうることが明らかとなっています(図1)。しかしそれがなぜ、どのようにしてがん細胞で合成されるかまではわかっていませんでした。

臭気物質の中にはがん特異的とされるものがあるため、本研究ではがんに特徴的なエネルギー代謝(ワールブルグ効果)、低酸素応答や乳酸代謝(図2)との関連に注目し、研究を続けてきました。

図1 臭気物質は脂質二重膜の脂質過酸化反応によって生じうる。図1 臭気物質は脂質二重膜の脂質過酸化反応によって生じうる。

図2 がん代謝の一つである乳酸代謝。低酸素、貧栄養条件などではがん細胞同士で乳酸を受け渡しエネルギー源としながら増殖をする。図2 がん代謝の一つである乳酸代謝。低酸素、貧栄養条件などではがん細胞同士で乳酸を受け渡しエネルギー源としながら増殖をする。

  • 本研究で得られた知見

以前の研究※で、「ヘキセノール」という臭気物質が肺がん細胞(A549)で顕著に放出されうることを報告しましたが、臭気物質の生合成経路は不明なままでした。本研究ではまず、測定が難しい臭気物質を効率的に捕集し測定できる装置VEM-1(図2)の開発をジーエルサイエンスと共同で行いました。このVEM-1を用い、正常細胞とがん細胞それぞれについて、10種類の異なる培地条件における臭気合成量を比較しました。その結果、低酸素、乳酸濃度上昇に連動して臭気合成が増大することがわかりました。そこで生合成に関係すると思われる酵素をin vitroで反応させ、酵素活性測定と酵素反応の生産物となる臭気物質の同定を行うとともに、低酸素応答や乳酸代謝と臭気の生合成の関連について、遺伝子発現比較を行いました。その結果、がん細胞において、脂質二重膜の脂質過酸化反応に関係する遺伝子発現群の発現増加が確認できました。

※:論文タイトル:Elucidation of Biochemical Pathways Underlying VOCs Production in A549 Cells

著者:Takeshi Furuhashi, Ryuga Ishii, Haruka Onishi, Shigenori Ota

掲載誌:Frontiers in Molecular Biosciences

DOI: 10.3389/fmolb.2020.00116

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmolb.2020.00116/full

図3 VEM-1臭気自動捕集装置。培養フラスコ中の臭気を樹脂に吸着させるもので最大4フラスコまで同時に吸着可能。図3 VEM-1臭気自動捕集装置。培養フラスコ中の臭気を樹脂に吸着させるもので最大4フラスコまで同時に吸着可能。

本研究の成果はがん転移、悪性化の特徴ともいえる「低酸素」「乳酸増加」といった条件が、がん臭気と関わりうることを示しました。また一方で、脂質の過酸化反応という酸素を必要とする反応にもかかわらず、がん臭気は低酸素で合成が促進されるという興味深い現象も確認できました。今後も当社グループではこのようながんの予防、治療につながる基礎研究を通じて、医療および獣医療の発展に努めてまいります。

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