アニコム損害保険株式会社のプレスリリース
ペット保険シェアNo.1※1のアニコム損害保険株式会社(代表取締役 野田 真吾、以下 当社)は、日本獣医生命科学大学、麻布大学との共同研究(以下 本研究)を通じ、特定のネコの品種にのみ存在すると考えられていた肥大型心筋症(HCM)の罹患に関与する遺伝子変異が、これまで見つかっていなかった品種においても存在することを明らかにしました。この成果は、治療法がいまだ確立されていない遺伝病であるHCMに罹患するネコを減らすための遺伝子検査や繁殖に役立てることが可能です。
本研究成果は米科学誌『PLOS ONE』にて4月19日にオンライン公開されました。
※1:シェアは、各社の2022年の契約件数から算出。(株)富士経済発行「2023年ペット関連市場マーケティング総覧」調査
タイトル:Presence of known feline ALMS1 and MYBPC3 variants in a diverse cohort of cats with hypertrophic cardiomyopathy in Japan
著者名:Noriyoshi Akiyama, Ryohei Suzuki, Takahiro Saito, Yunosuke Yuchi, Hisashi Ukawa, Yuki Matsumoto
詳細:PLoS ONE 18(4): e0283433.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0283433
- HCMを取り巻く背景
HCMは、ネコにおいて最も多い心臓病で、心筋が異常に厚くなることで心不全や血栓症、突然死を引き起こす重篤な病気です。一部の純血品種(メインクーン、ラグドールやスフィンクス)では、心筋の発達に関わる遺伝子に特定の遺伝子変異を持つ場合、HCMの罹患リスクが高くなることがわかっています。これらの遺伝子変異は、上記3品種でそれぞれ特徴的なもので、他の品種(非特異的品種)では見つかっていませんでした。
一方で、これまでのHCMの罹患に関与する遺伝子の研究で用いられてきたネコは欧米の個体が中心で、調査対象として偏りがありました。また、当社のグループ会社が行った日米のネコの遺伝子を比較した研究で、両国の間で同一品種のネコ同士でも遺伝子の由来が異なることや、メインクーンやラグドールが他の品種と過去に交配していた痕跡が見つかっています※2。これらのことから、非特異的品種であっても、HCMのリスク変異をもつ可能性がありました。
そこで本研究では、日本獣医生命科学大学、麻布大学と共同で、HCMに関連する遺伝子変異の有無を、非特異的品種を含む13品種と雑種で調査しました。
※2:2020年12月3日 アニコム先進医療研究所株式会社ニュースリリース
イエネコの遺伝的多様性を網羅的に解明することに成功(https://www.anicom-med.co.jp/news/pdf/anicom_genomics.pdf)
- 本研究の成果
本研究ではまず、日本獣医生命科学大学でHCMの罹患・非罹患の診断が行われた76頭のネコを対象として、当社グループの研究施設にて遺伝子検査を実施しました。この結果、メインクーンのみが持つと考えられていたHCMの罹患リスクを高める変異の一つ(MYBPC3 p.A31P)を、日本で多く飼育されているスコティッシュ・フォールドとマンチカンの2品種も持っていることが明らかになりました。次に、全国各地の一般ブリーダーと、当社グループ病院の一つである新宿御苑前どうぶつ病院から提供を受けたスコティッシュ・フォールドとマンチカン、それぞれ約100頭を対象にした遺伝子検査により、MYBPC3 p.A31P変異はどちらの品種でも50頭に1頭以上の頻度で存在することが明らかになりました。
さらに、スフィンクスのみが持つと考えられてきたHCMと関連のある遺伝子変異(ALMS1 p.G3376R)は、ここまでで用いられた全てのネコを用いた解析により、スコティッシュ・フォールド、マンチカン、アメリカン・ショートヘア、エキゾチック・ショートヘア、ミヌエットからも発見されました。このことから、ALMS1 p.G3376Rはスフィンクス特異的な変異ではないことが示されました。
- 新たなHCM罹患ネコを減らすために
HCMは主に心エコー図検査などを用いて診断されますが、専門医でも診断が難しいケースがあるうえ、根本的な治療方法は確立されていません。純血品種のネコでは人がその繁殖を管理していることから、遺伝的にHCMの罹患リスクが高い個体を繁殖に用いないといった配慮により、HCMを罹患するネコを減らすことが可能です。そのためには、遺伝子検査とその検査結果に基づく適切な交配が重要です。
本研究の成果は、当社グループの取り組みの一つであるペットの遺伝病の予防をさらに一歩進めるものとなりました。また、本研究は特定の遺伝子変異の有無を広い範囲の地域と品種を用いて調べる重要性を示しており、本研究に続く様々な遺伝子変異の解析により、国や品種を越えて遺伝病罹患リスクを下げることができる可能性があります。
今後も当社グループでは、様々な研究を通じて獣医療の発展と動物福祉の向上を目指してまいります。