ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ株式会社のプレスリリース
2023年はどんな年になるのでしょうか。インフレの加速が一服し、景気後退の可能性を見越した楽観的な見方が戻りつつありますが、多くのプロ投資家は警戒を続けています。ここでは、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズと関連運用会社のポートフォリオ・マネージャー、ストラテジスト、エグゼクティブなどによる2023年の市場見通しに関する見解を紹介します。
不動産:長期的な低利回りの終焉 利回りの変化、不動産バリュエーション、投資機会
AEWキャピタル・マネジメント リサーチ担当マネージングディレクター マイケル・アクトン (Michael Acton)
世界的な金利環境の急激な変化は、上場リスク資産の価格に一早く表れ、株式、債券、REITの価格は2022年中におおむね15%~25%下落しました。一方でプライベート市場の不動産評価額は、通常、公開市場より12ヶ月以上遅行するため、顕著な評価額の変動は見られていません。2023年は、既存の投資先の不動産の全般的な価格調整が起こり、利回りなどの指標が、現在の借入コストや他の資産クラスの利回り上昇などと同程度になると予想されます。
価格調整後、景気の谷を超えた後には一般的に景気回復とクレジット市場の緩和が進み、不動産市場のファンダメンタルズと資産評価が改善するため、米国のコア不動産は通常より大きなトータルリターンを生み出します。現在、パンデミック直前の数年間に組成され、満期を迎える不動産ローンの借り換えは、2023年から2024年にかけて特に困難になると思われます。これらの物件の多くは、新たなエクイティ、シニアファイナンス、メザニンレンディングなど、いわゆる救済資金を必要とし、金融危機直後以来の投資機会が生まれるでしょう。
短期的には、厳しい資本構造の中で、新たな債券や株式の発行と、それに見合った高いリターンが求められることになりますが、長期的には、現在のような投資環境から脱却し、より有利になる可能性があります。多くの投資家、特に年金スポンサーは、過去10年間、低水準またはマイナスの名目・実質利回りという投資環境に苦しんできました。金融危機後、世界中の中央銀行は、金融システムの安定化、経済成長、パンデミックの影響緩和などを求めたため、全般的に資本コストが歪められました。表向きは物価安定のために行われた協調的な金利の正常化が、最終的にプラスの実質国債利回りという新常態に移行すれば、大半の投資家は大きな恩恵を受けるでしょう。その場合、より安全なクレジット資産(シニアローンなど)や、コア不動産などへの資本投入が再び可能になるでしょう。
プライベート・エクイティ:2023年は慎重な見通し
フレックスストーン・パートナーズ マネージング・パートナー エリック・デラム(Eric Deram)
2022年はESGテーマの優勢、好調な資金調達、共同投資やセカンダリーの増加などに支えられ、世界のプライベート・エクイティ(PE)業界にとって比較的好調な年となりましたが、現在、PE業界の見通しは急速に変化し、非常に複雑なものとなっています。フレックスストーンは2023年の見通しには慎重な姿勢です。
一方で、PEは、ボラティリティが高く、資金調達が減少している時期に、より大きな差をつけてアウトパフォームすることも認識しています。中型のPEファンド、共同投資、セカンダリーへのグローバルな投資家である当社は、今後1年間に予想される5つの重要点を以下の通り挙げています。
- PEの資金調達額は、2023年に大幅に減少する。
- 2023年はPEのセカンダリーの買い手市場になる。
- PEではファンドがより中心的な役割を担うようになり、規制当局やLPからの監視の目が厳しくなることが予想される。
- インフレ、世界的な景気後退、金利負担の増加に伴い、2022年の上場株式と同様に、2023年にPEのバリュエーションが低下する。
- 2023年の持続的なインフレと中国の景気減速は、特に欧州の設備投資と輸出型ビジネスにさらに影響を与える。
債券:2023年は若干の景気後退、債券復活の兆し
ハリス・アソシエイツ ポートフォリオ・マネージャー兼債券部門共同責任者 アダム・アッバス (Adam Abbas)
2022年は、債券市場にとって、リターンと予見性という点で最も困難な年として記憶されるでしょう。ただ、ひとつ確かなことは、弱気相場はいずれ終焉を迎えるものであり、債券においては、価格(バリュエーション)、期間、利回りの上昇というディスカウントのメカニズムを通じて、必ず満期が到来するということです。
2023年には、投資家は需要低下という状況を乗り切る必要がありますが、同時に、ディスインフレが勢いを増すにつれ、FRBは最終的には金融緩和の姿勢に転じることを想定して調整する必要があります。現在分かっているのは、信頼に値する複数の前兆から、今後の景気悪化が明示されているという点です。このため、当社は2023年の基本シナリオを若干の景気後退としました。
2023年の景気後退の程度についてはさらに興味深い議論があります。消費者は貯金を取り崩しているものの、家計は比較的良好な状態にあり、企業のバランスシートは世界金融危機以前に比べてはるかに弾力的です。予想通り、より緊縮な状況のために労働市場は冷え込んでいますが、崩壊はしていません。そのため、過去の景気後退期と比較すると、インフレの状況はかなり常軌を逸しています。しかし、需要が大きく落ち込むことなく、物価が自然に下落する可能性を市場は過小評価していると思われます。
要約すると、金融情勢はタイトですが正常化し、若干の景気後退になると予想されます。このような見通しを念頭に、当社は慎重にかつ機敏に動きたいと考えています。若干の景気後退は、経済の最も脆弱な部分に経済的痛みをもたらすはずです。つまり、過去数年間、中央銀行と財政による流動性供給によって生き延びてきた最も弱い企業(いわゆるゾンビ債権)は、今回、最終的には実際にデフォルトとなる可能性があります。
アクティブ運用とボトムアップ・アプローチによるファンダメンタルズ・リサーチが、生き残る企業を選別する上で、これまで以上に有効となります。リスク選好度の低い投資家や、パッシブなアプローチを志向する投資家にとって、質の高い債券は、競争力のあるトータルリターンと、多くの資産クラスを上回る損失に対するプロテクション機能を果たすに十分な高い利回りを、ここにきて提供できる可能性があります。
債券:新型コロナウイルスの霧からの回復
ルーミス・セイレス ポートフォリオ・マネージャー兼フルディスクレッション・チーム共同責任者 イレーン・ストークス(Elaine Stokes)
過去2年を通して、市場は世界的なパンデミック、紛争、インフレ、そして経済の不確実性と市場のボラティリティを軽減するために各国政府や中央銀行が取るべき対策に注目してきました。不確実性のピークを過ぎた今、私たち運用マネージャーは、戦略や今後何年にもわたり市場を形成する長期的なトレンドに焦点を向け始めることができます。
霧が晴れた今、債券投資家の出発点は、より多くの収益、クッション、そして投資機会を提供すると私は考えています。ポートフォリオの焦点は、金利の取引からクレジットの選択へと移行する必要があります。ボラティリティがコロナ禍の極端な水準から低下し、深刻なテールリスクの可能性が薄れるにつれ、今後数年間はキャリーがはるかに重要になる可能性が高いと思われます。投資家は再びある程度のボラティリティとリスクに対して対価を得ることになるでしょう。経済成長の減速と各国中央銀行の積極的な政策に伴い生じる派生的問題を乗り切るためには、機敏かつ積極的に行動し、保有するクレジットを把握することが重要です。
投資家は、成長率の鈍化とインフレ率の高止まりという状況に対応する必要があります。経済成長は中央銀行の政策から打撃を受ける見通しであるものの、中国の経済活動再開とそれが世界需要にもたらす潜在的な影響や、耐性を備えた消費者が、成長を下支えると予想されます。今回の景気サイクルでは、インフレ率はピーク入りしたと思われるものの、労働力不足や世界的な経済再開に伴う需要を考えると、インフレ率は頑なに高止まりを続けると思われます。
各国政府は、サプライチェーンの安全確保や、サイバーセキュリティ、防衛、医療、気候変動への支出増の必要性などによるコスト増を背景に、財政赤字に直面することになるでしょう。このため、利上げが中断された後も、金利は現水準近辺で推移する見通しです。多くの政治的、地政学的、経済的な要因は緩和しつつある模様です。各国中央銀行のセーフティネットを取り除き、行き過ぎた部分がどこにあるのかが明らかになるにつれ、今後はデフォルトリスクに注目が寄せられるでしょう。
このような状況はアクティブ運用にとって好材料であり、様々な出来事が生じた過去数年に比べ、はるかに確信を持って景気サイクルやクレジット、投資機会を分析することができるようになると私は考えています。
マクロ・市場:2023年、3つの問い
ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ・ソリューションズ リード・ポートフォリオ・ストラテジスト ジャック・ジャナスウィックス(Jack Janasiewicz)
2023年、市場がどのように展開するかを考える上で非常に重要な3つの問いを考察します。1問目は、インフレ率についてです。最悪期を脱したのは確かなものの、より重要なのは、米国の構造的均衡金利がどの水準に落ち着くか、という点です。インフレ率が目標値である2%を大幅に上回り続けるようであれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は、現在織り込まれている水準よりもさらに引き締めに動くと予想されます。FRBがよりタカ派的なスタンスを取った場合、世界的に低下しているリスク選好度の回復は期待できません。
2問目は、収益見通しです。市場の見解は、年末まで業績はほぼ横ばいで推移する、あるいはさらに10~15%減少する、に二分化している模様です。2023年の景気後退は避けられないというのがコンセンサスですが、当社は「米国の消費者が負けることに賭けてはいけない(Never bet against the US consumer)」という古い格言を熟考しています。もう一つあります。「米国企業の耐性と柔軟性を見くびってはいけない(Never underestimate the resiliency and flexibility of corporate America)」。企業は利益率確保を目的に積極的なコスト削減を行っています。コスト削減圧力が弱まり、需要が回復してきたことは、1株当たり利益が予想を上回るための条件が整ったということなのかもしれません。
3問目。世界的に金融引き締めが実施された2022年の後、2023年は世界各国の中央銀行が異なる金融政策を実施する1年になると予想され、各国の経済成長に確実に異なる影響を与える見通しです。FRBの引き締めサイクルの終了は間近に迫っていると思われますが、欧州中央銀行はつい最近FRBの手法を取り入れたばかりであり、依然として数四半期遅れています。2023年に向けて、米国では成長モメンタムが上昇に転じている一方で、欧州では緩やかな下落リスクが一段と高まっているように思われます。また、新興国市場では、多くの中央銀行が最初に引き締めに転じました。インフレ圧力が一巡し、成長率が緩やかになるにつれ、今度はまず緩和政策を行うのでしょうか。中国は経済再開に完全にコミットしており、プロセスは紆余曲折があると思われるものの、この流れは不可逆的に見えます。その間、中国人民銀行は世界とは完全に異なる金融政策、つまり緩和の道を歩み続けることになりそうです。一方行の金利取引が主流であったこの1年を経て、2023年は再び「ニュアンス」を読み取ることが重要になる見通しです。
インパクト投資:不確実性は残るものの、厳選したサステナブル株式は魅力的
ミローバ グローバル・サステナブル株式ファンドのポートフォリオマネジメント・チーム
2023年の株式市場は、2022年から継続する多くの課題により、引き続き不安定な状況が続くと予想されます。各国の中央銀行がインフレ対策として利上げを実施することにより、上半期の経済活動は大幅に鈍化する見通しです。当社は、インフレ率は「より高い水準でより長く(higher for longer)」定着し、欧米で景気後退につながる可能性が高いという前提を維持しています。アジアの状況は若干異なり、中国経済の再開は、脆弱ながらも世界のサプライチェーンの制約を緩和し、経済成長を支える要因となる可能性があります。
少なくとも2023年初頭においては、多くの中央銀行はインフレ対策として利上げを継続する見通しで、短期金利はその影響を受けると思われます。しかし、米国では2022年末にインフレ率はピーク入りした可能性があり、欧州やその他地域もピークに近づいている可能性があるなど、長期金利が一段と上昇する可能性は極めて低いと思われます。とは言え、ロシア・ウクライナ紛争やパンデミックの影響を受けた、サプライチェーンの構造変化などから、インフレ率は歴史的な水準より高く、長く定着すると見ています。
2023年のサステナブル投資の主なテーマは以下の通りです。
- グローバルなサプライチェーンの変化により、産業オートメーションや産業プロセスの最適化に関連した投資機会の拡大が予想される。
- エネルギーと欧州のエネルギー安全保障: ロシア・ウクライナ紛争や、ロシアが石油・ガスの供給を盾に政治的圧力をかける可能性があるため、短期的には、他国から液化天然ガスを輸入するなどの対応が取られる見通し。しかし、長期的には、風力や太陽光、そして水素のような大規模ソリューションなどの再生可能エネルギーが、欧州のエネルギー安全保障の唯一の解決策であり、欧州の真のエネルギー自立を実現できると思われる。
- 米インフレ抑制法の成立: 米国での環境政策の転換は当面のところ明確であり、これらのテーマに積極的に取り組む企業に成長の追い風が強まるものと思われる。
- 生物多様性とフードシステム: 12月にモントリオールで開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、2030年までに「陸と海の30%保全」の誓約を含む、生物多様性の保護と回復に関する画期的な行動目標が190以上の国や地域によって採択された。これを機に、生物多様性に関するリスクと機会について、産業界全体、特に持続可能な土地管理と食品生産、素材とバイオサイエンス、水技術、持続可能なパッケージングに関するソリューションがより広く認識されるようになる見通し。
債券:債券市場の逆襲
オストラム・アセット・マネジメント マーケット・ストラテジー責任者 ステファン・デオ(Stephane Deo)
当社の経済見通しは、若干の景気後退を前提としています。また、インフレ率は年前半に急激に低下するものの、年間を通じてはECBのターゲットである2%を大きく上回ると予想しています。インフレ率がターゲット以下まで収束しないこともあり、ECBは第2四半期の初めの水準であった3%まで政策金利を引き上げ、年末までこの水準を維持するでしょう。
ECBが金融引き締めの小休止を示唆した後にはイールドカーブはフラット化し、また2022年と比較してボラティリティが低下すると見ています。従って2023年は債券市場の逆襲の年となる可能性が高いと考えています。ソブリン債に関しては、ドイツ国債が3%前後の利回りで安定的に推移することもあり、2022年よりも大幅に低いリスクプロファイルを享受できるでしょう。また、周辺諸国の債券スプレッドはフェアバリューに近いとみており、その意味でも大きな展開はないと考えています。従って、ソブリン債にとってより望ましい、期待リスクリターンのプロファイルになると思います。
欧州ハイイールド債のデフォルト率は長期的な平均水準をやや上回る4%程度まで上昇すると予想しています。従って、より悲観的なシナリオを前提としている信用スプレッドが更に縮小する可能性があり、これが当該アセットクラスのパフォーマンスを押し上げると予想されます。金利上昇トレンドとスワップスプレッドの縮小という私たちの予想は銀行セクターに有利に働くでしょう。また、2022年は冴えないパフォーマンスであったREITにも注目しており、通信セクターはやや割高と判断しています。
株式:複数の課題に直面する株式市場
ボーン・ネルソン・インベストメント・マネジメント CEO兼CIO クリス・ウォリス(Chris Wallis)
ベアマーケットとなった2022年の株式市場は、金利上昇により資本コストが上昇し、その結果株式のバリュエーションが低下した影響を反映しています。株式市場にとっての次に控える課題は、2023年の収益見通しの引き下げを織り込むことになるでしょう。2023年の上半期において、収益見通しの下方修正が最も大きくなると思われます。
2023年後半の回復局面については、インフレ率の急激な低下と、高金利による経済や市場の過度の弱さにつながるかどうかの綱引きとなるでしょう。現在の金利水準と終了した金融および財政刺激策により、2023年の第3四半期にはインフレ率の推移はFRBのインフレ目標にサヤ寄せすると予想しています。
しかしながら、金融政策の引き締めや金融および財政刺激策の終了により、業績後退や景気後退の可能性があると予想しています。経済や金融情勢が悪化し、政策当局が再度の景気刺激策を打ち出さざるを得なくなった場合においては、インフレ圧力が再び加速する可能性があるでしょう。
すべての投資には、損失リスクなどのリスクが伴います。
本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスとして解釈されるべきものではありません。本資料に記載された見解は、2023年1月9日現在のもので、市場等の状況により変更されることがあります。また、予想通りの展開となる保証はなく、実際の結果は異なる可能性があります。