【調査レポート】認知症による資産凍結を防ぐ家族信託、2021年はコロナ禍の逆風でも利用者数が増加

トリニティ・テクノロジー株式会社のプレスリリース

主に高齢者の資産凍結対策として利用される家族信託の利用者数は、2021年においてコロナ禍の逆風下にもかかわらず力強く増加傾向を維持した。2021年の土地信託登記件数は昨年対比で増加しており、仙台エリアで172%、さいたまエリアで133%などの増加が確認された。インターネット上での「家族信託」の検索件数も上昇しており、家族信託の認知度が上昇し始めた2014年と比較するとおよそ7倍にまで増加している。一方、認知症対策として政府や自治体が推奨する成年後見制度は家族信託と比較すると普及が進んでいない。2050年には認知症患者数が約1,000万人(2050年時点予想人口の約10%)にも上ると推計されており、今後も家族信託を中心に高齢者の資産凍結対策の需要は増え続けるものと思われる。

「スマート家族信託」を提供するトリニティ・テクノロジー株式会社は、2021年における家族信託の利用者数動向を調査した。

調査レポートコンテンツ
1. 昨年対比172%のエリアも。2021年の土地信託登記件数の動向
2. インターネット検索回数から見る家族信託の認知度の上昇
3. 家族信託の普及の要因
 3-1. 認知症の患者数の増加
 3-2. マスメディアによる認知度の向上
 3-3. 金融機関の対応の広がり
4. 家族信託と成年後見制度における利用件数推移の比較

家族信託※ は私契約であるため、その利用件数を正確に把握することは出来ない。
そこで本調査では家族信託の利用状況の動向を把握するために、不動産を信託した際に必須となる不動産(土地)の信託登記件数の調査、「家族信託」のウェブ上における検索件数の調査、成年後見制度との利用件数推移の比較を行なった。

※家族信託については以下を参照
https://sma-shin.com/family_trust/

1. 昨年対比172%のエリアも。2021年の土地信託登記件数の動向

不動産を信託した場合には当該不動産について信託した旨の登記手続きを行う必要があるため、家族信託の動向を把握するためには不動産の信託登記件数が参考となる。
※信託の登記は商事信託などの家族信託以外の信託においても発生するため、当該件数は家族信託の件数とは一致しない。

出典:法務省 登記統計表 土地の登記のみの件数
https://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touki.html
 

土地信託登記件数は2017年には7,054件であったが、毎年10〜20%の伸び率で増加し続け、2021年は12,805件に上った。 

2021年の土地信託登記件数の前年対比をエリア別に見ると、仙台エリアで172%、さいたまエリアで133%、福岡エリアで127%、千葉エリアで126%などと都市圏を中心に増加した。
全国の件数合計における前年対比は109%と、全国的にも増加傾向にある。

家族信託は高齢者が当事者(委託者)となるため、2021年においてはコロナ禍による外出自粛や高齢者施設の出入り制限の影響により、信託組成件数が大きく抑制されたことが考えられる。
このような状況下においても2021年は昨年対比9%の増加があったことから、家族信託の需要は引き続き増加傾向にあると考えられる。

2. インターネット検索回数から見る家族信託の認知度の上昇

「家族信託」のインターネット検索回数をGoogleトレンドで調査すると、その認知度が毎年増加していることが分かる。

「家族信託」の検索トレンド推移

出典:Googleトレンド
※2014年の検索回数を1とした場合の相対値

はじめて家族信託というキーワードが一般に現れたのは、信託法が改正された2006年である。
信託法が改正されたことにより、一般家庭での財産管理における信託活用の道が開かれ、一部の専門家の中で「家族信託」という新たな手法が見出された。
その後しばらくは家族信託が大きな注目を浴びることはなかったが、2014年から徐々に検索回数が増加し、後述するように2017年にNHKなどのマスメディアに大きく取り上げられたことをきっかけに、大きく検索回数が増加したものと考えられる。

3. 家族信託の普及の要因

家族信託の主な普及の要因としては、認知症患者数の増加・マスメディアを通じた認知度の向上・金融機関の対応の広がりなどが考えられる。

 

3-1. 認知症の患者数の増加

(推計)認知症患者数の推移

出典:厚生労働省老健局 認知症施策の総合的な推進について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf

厚生労働省によれば、2012年に450万人だった全国の認知症患者数は、2025年には700万人を突破し、高齢者のうち5人に1人が認知症となる時代に突入すると推計されている。
また2050年には人口約1億人に対し、高齢者が約3800万人(人口対比約37.7%)、認知症患者が約1000万人(同約10%)となる見込みである。

家族信託は主に高齢者の認知症による財産凍結の対策として利用されるため、高齢者や認知症患者数の増加に伴い家族信託の利用者数は今後さらに増加すると考えられる。

3-2. マスメディアによる認知度の向上
ここ数年、家族信託を特集した雑誌やテレビ番組などが頻繁に見られるようになった。

【家族信託を特集した主なテレビ番組】
2017年11月20日
あさイチ(NHK)にて「どうする?実家の始末」として家族信託が特集
2018年1月18日
とくダネ!(フジテレビ)にて、「親の財産“凍結”からどう守る?」として家族信託が特集
2019年4月16日
クローズアップ現代+(NHK)にて「親の“おカネ”が使えない!?」として家族信託が特集

テレビで取り上げられた時期と、先に提示したインターネットでの検索回数が跳ね上がった時期は概ね一致している。家族信託を取り扱う当社においても、テレビ放映の時期にテレビを見て家族信託を初めて認知したお客様からの問い合わせが多く発生した。

3-3. 金融機関の対応の広がり
家族信託を利用するためには、信託財産を管理するための専用口座の開設(信託口口座)が必要となる。これに対応している金融機関は2016年時点においては三井住友信託銀行などごく一部の金融機関に限られていたが、家族信託の利用者数増加を受けて家族信託用の口座開設に対応する金融機関が増加した。

銀行の家族信託対応状況(一部抜粋):
2016年 三井住友信託銀行が信託口口座開設に対応開始
2016年 広島銀行が民事信託に対応したローン商品の取り扱い開始
2018年 四国銀行が民事信託コンサルティング業務の取り扱い開始
2018年 オリックス銀行が、家族信託の契約支援業務開始
2019年 京葉銀行が民事信託の手続き支援サービスを開始
2019年 千葉興銀が民事信託関連商品の取次開始
2019年 十六銀行が民事信託に対応した口座の開設に取り組むことを発表
2020年 長野銀行で家族信託の取り扱い開始
2020年 第四銀行が家族信託の利用支援業務開始

証券会社の家族信託対応状況(一部抜粋):
2017年 野村証券が家族信託による証券口座開設に対応
2019年 大和証券が民事信託(家族信託)サポートを開始
2020年 楽天証券が、IFAを通じた家族信託サービスを開始
2021年 東海東京フィナンシャル・ホールディングス 民事信託による投資を受け付け開始

上記の通り、家族信託の利用に対応するサービスを提供する金融機関は毎年増加している。

4. 家族信託と成年後見制度における利用件数推移の比較

最後に、「成年後見制度」(家族信託と同様の認知症による財産凍結問題に対応する制度)の利用件数の推移と、家族信託の利用件数の推移を比較する。

一般には政府や自治体において、認知症を発症し財産の管理に問題が生じた場合には成年後見制度を利用することが推奨されているが、成年後見制度の利用には一定の費用を要する、自由な財産管理ができなくなるといった問題点が存在することから、その普及は進んでいない。
成年後見制度の利用件数は、2017年に34,249件、2020年に35,959件と、直近4年間における増加率は約5%に留まっている(下記グラフ右軸が成年後見制度の利用件数)。

信託の登記件数と成年後見制度の利用件数の推移

出典:法務省 登記統計表及び最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html

家族信託の利用件数が毎年10%以上増加していると推定される一方、成年後見制度の利用件数は伸び悩んでいることが分かる。なお政府においては、成年後見制度の利用者数の伸び悩みについての課題を踏まえ、後見人に対して支払われる報酬体系の見直しや、柔軟な制度運用を可能にするなど、抜本的な制度の見直しが検討されている。

※成年後見制度利用促進専門家会議より
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212875.html

以上、家族信託の動向を調査した。
高齢化による認知症患者数の増加や、成年後見制度の利用率の低迷もあり、家族信託を中心とした認知症による資産凍結対策の需要は今後も増加するものと考えられる。