企業の6割が内容を認識するも、取り組み企業は4社に1社にとどまる  社員の関心や求めるニーズの多様化、人材不足が壁に

金融経済教育に関する企業の意識調査

株式会社帝国データバンクのプレスリリース

政府は、「貯蓄から投資へ」の動きを促す一環として、金融経済教育の充実を推進している。従業員に対する金融経済教育は、社会的な意義とともに従業員エンゲージメント(従業員と企業の結びつきの強さ)の向上につながると考えられ、企業にはより積極的な関わり方が求められている。

そこで、帝国データバンクは、金融経済教育に関する取り組み状況について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2024年10月調査とともに行った。

<調査結果(要旨)>

  1. 金融経済教育、内容は62.1%が認知も、前向きな企業は4社に1社にとどまる

  2. 従業員数が多いほど前向き、「1,000人超」で半数を上回る一方、100人以下は3割に満たず

  3. 取り組み上の課題、ニーズのバラつきによるまとまった教育の困難、人材・時間の不足が3大要因

※調査期間は2024年10月18日~10月31日、調査対象は全国2万7,008社で、有効回答企業数は1万1,133社(回答率41.2%)

※調査機関:株式会社帝国データバンク


金融経済教育、内容は62.1%が認知も、前向きな企業は4社に1社にとどまる

金融経済教育[1]について、その内容を知っているか尋ねたところ、「知っている」企業は62.1%と6割を超えた。他方、「知らない」は28.6%、「分からない」は9.3%だった。

金融経済教育への取り組み状況では、内容を「知っている」企業6,913社のうち「既に取り組んでいる」は12.4%、「取り組みたいと考えている」は14.7%と、両者を合計した取り組みに前向きな企業は27.1%で4社に1社にとどまった。一方で、「取り組んでいない」は56.3%となり、認知していても取り組みを進めていない企業が半数を超えていた。さらに、「(今後とも)取り組む予定はない」とする企業も16.6%あった。

現在「既に取り組んでいる」企業からは、

  • 「金融機関職員を講師とした勉強会を開催している」(生菓子製造)

  • 「中小企業は教育・研修などを受講する文化などが今までなかった。価値観が違いすぎる面はあるものの、時間をかけてやることがとにかく大事であると思っている」(木造建築工事)

  • 「DC(確定拠出年金)をもとに金融教育を行っている」(サッシ卸売)

  • 「社内内部留保に関する運用の仕組みの開示や、会社のメインバンクの残高・出納の開示など、会社の経営状況を題材に落とし込んでいる」(デザイン業)

といった意見が聞かれた。

一方で、「取り組んでいない」企業からは、

  • 「金融経済教育を企業が行うのではなく、金融庁などの公的機関がリモートなどで講習会を開くのが一番良い方法」(自転車小売)

  • 「金融経済教育は、実践的な内容を学生時代の早い段階から実施してほしかった。社会人になると、資産形成や、それを実行するための勉強時間や環境を捻出・調整しにくい」(施設野菜作農)

などの声もあがっていた。

従業員数が多いほど前向き、「1,000人超」で半数を上回る一方、100人以下は3割に満たず

金融経済教育の認知度を従業員数別にみると、内容を「知っている」企業は「101~300人」が70.6%で最も高く、「301~1,000人」(70.0%)も7割台となった。一方で、「5人以下」は55.5%と、唯一5割台にとどまった。従業員の規模に比例して認知度は高まるものの、100人を超えると7割台で頭打ちとなっている。

取り組み状況は、従業員数が多い企業ほど前向きに考えている。内容を「知っている」企業のうち、従業員数が「1,000人超」の企業では50.6%が前向きであり(「既に取り組んでいる」33.7%と「取り組みたいと考えている」16.9%の合計)、次いで「301~1,000人」が45.5%で続いた。他方、「(今後とも)取り組む予定はない」では、「5人以下」が22.6%と2割を超えていた。

取り組み上の課題、ニーズのバラつきによるまとまった教育の困難、人材・時間の不足が3大要因

金融経済教育の内容を「知っている」企業6,913社に対して、金融経済教育に取り組むうえでの課題について尋ねたところ、「社員のニーズにバラつきがあり、まとまった教育が行えない」が39.5%で最も高かった(複数回答、以下同)。また、「教育を行う人材がいない」(38.5%)、「教育を行う時間が割けない」(34.2%)がいずれも3割台で続いた。

次いで、「何を教えればよいか分からない」(16.9%)、「教育を行うための費用が捻出できない」(15.2%)が続き、教える内容や費用面での課題は1割台にとどまった。

企業からは、

  • 「選択制の企業型確定拠出年金の導入には金融経済教育が必須であるため、定期的な教育機会を作っているが、社員間の関心の高さの度合いが異なるため、画一的な教育が難しいのが現状」(経営コンサルタント)

  • 「以前iDeCoを進めたが、誰も応募してこなかった。若い従業員が多く、将来のお金より今のお金が大事なのだと感じている」(金属プレス製品製造)

  • 「集合教育の機会があまりとれないので、オンライン教材などの活用が必要」(ソフト受託開発)

  • 「教育を金融機関に依頼している」(養鶏)

などの声があがった。

本調査によると、企業の6割超が金融経済教育の内容を知っていた。しかし、その中で前向きに考えている企業は4社に1社にとどまる。その理由として、多様なニーズを自社でまとめきれないことのほか、人材や時間の不足が3大要因となっていることが分かった。

政府が金融経済教育を進める背景には、「貯蓄から投資へ」のキーワードをベースに個人の経済的自立や生活設計の支援だけでなく、超高齢社会への対応や金融市場の複雑化、デジタル化の進展、国際競争力の強化などがあげられる。

金融リテラシーの向上は、持続可能で安定した経済社会を実現する一助となる。そのため、政府・民間企業・金融機関が協力し、実践的な金融教育プログラムをより一層提供すべきであろう。

[1] 金融経済教育とは、最低限身につけておきたいお金の知識と判断力を意味する金融リテラシーを得るための教育のこと。学生や社会人はもとより、国民一人一人が、社会で生きていくために必要な金融やその背景となる経済についての基礎知識を高めていくことを目的としている。

具体的には、家計管理(収入と支出の管理、計画的な支出、収支の改善など)、生活設計、お金や金融・経済の機能・役割、基本的な金融商品の内容、年金・保険、ローン・クレジットの仕組みや注意点、貯蓄や資産形成(NISA・iDeCo等)、金融トラブルの防止など。さらに、従業員に対する研修なども対象となる。