〜知っておきたい火災保険の水災補償について紹介〜
ソニー損害保険株式会社のプレスリリース
今回は、今年の夏にラニーニャ現象の発生が予想されていることを受け、過去30年間のエルニーニョ現象・ラニーニャ現象が発生した時期と水害被害額をインフォグラフィックで振り返るとともに、気象予報士の田頭孝志さんにラニーニャ現象をはじめ、直近で発生したラニーニャ現象と豪雨被害、今年の夏の気象傾向について解説していただきます。また、2024年10月に改定される火災保険の解説と自然災害の被害を補償する水災補償についてもご紹介します。
【出典元】
気象庁「エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間(季節単位)」
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html
政府統計の総合窓口(e-Stat)「水害統計調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00600590&iroha=13&result_page=1
気象予報士 田頭 孝志さんによる解説 |
■ラニーニャ現象とは
ラニーニャ現象とは、太平洋赤道域の海面温度が例年に比べて、西部でより高く、東部でより低くなる現象です。赤道域で常に吹いている貿易風と呼ばれる東風が、例年に比べて強まることによって発生します。
ラニーニャ現象は、日本や世界各地で異常気象をもたらす原因の一つです。太平洋赤道域の海面温度は、通常東風が吹くことによって、西部で高く、東部で低くなっています。その理由は、東風によって赤道の暖かい海面付近の海水が太平洋赤道域の西部に吹き寄せられる一方、東部ではもともとある暖かい海面付近の海水がなくなり、海の深いところから冷たい水が湧き上がってくるためです。そして、東風が平常時に比べてさらに強く吹くと、太平洋赤道西部にはさらに暖かい海水が吹き寄せます。その反動で、太平洋赤道東部では海面温度が例年よりも低くなります。
以下の図をご覧ください。このように、赤道域の東風が強まって例年以上に太平洋赤道域の西部の海面温度が高く、東部の海面温度が低くなることをラニーニャ現象といいます。
太平洋赤道域の海面温度分布が変わると、雨を降らせる積乱雲が発生するエリアも変わってきます。というのも、雨を降らせる積乱雲は暖かい海面上で発生するためです。平常時であれば、海面温度が高い太平洋赤道西部で広く積乱雲が発生しますが、ラニーニャ現象が発生すると、より西側のインドネシアの海域で積乱雲が盛んに発生します。
そして、積乱雲や大雨の発生エリアがいつもと異なると、その周辺の風の流れも大きく変わり、遠く離れた日本や世界の気象にも大きな影響を及ぼします。また、ラニーニャ現象と似ている言葉にエルニーニョ現象があり、こちらは日本に冷夏や暖冬などの異常気象をもたらす原因の一つです。エルニーニョ現象は、平常時に比べて赤道付近の東風が弱く、太平洋赤道域の東部で海面温度が高く、西部の海面温度が低くなります。
■発生することで日本にもたらす気象傾向
ラニーニャ現象が発生すると、日本では「夏の猛暑」「大雨」「干ばつ」など極端な気象になりやすい特徴があります。ラニーニャ現象によって夏が猛暑となるのは、夏の暑さと晴れをもたらす太平洋高気圧が強化されるためです。太平洋高気圧は、積乱雲から吹き出す下降流によって形成されます。
ラニーニャ現象が発生すると、インドネシアの海域で積乱雲の発生が一段と活発になり、その反動で周辺では下降流が強くなって、太平洋高気圧が強化されるという仕組みです。太平洋高気圧の勢力が強ければ強いほど、気温も高くなって猛暑となります。
そして、この猛暑は大雨をもたらす原因にもなります。というのも、雨のもとになる水蒸気は気温が高いほど空気に多く含むことができ、水蒸気を多く含んだ空気が雲になると、よりたくさんの雨を降らせるためです。例えば、気温が30℃だと1㎥に含むことのできる水蒸気量の上限は約30.4gですが、気温が40℃だと1㎥に含むことのできる水蒸気量の上限は51.2gです。単純に気温が10℃上がるだけで、1㎥あたりの雨の量は約20gも増える計算になります。
夏に比べて冬の大雨が少ないのも、気温が低く空気中に水蒸気をたくさん含むことができないためです。そのため、ラニーニャ現象で気温が上昇した状態で雨が降ると、経験したことのないような大雨になるリスクも高まります。
「ラニーニャ現象だと、太平洋高気圧の勢力が強いからそもそも雨は降らないのでは?」と疑問に感じるかもしれません。しかし、何らかの原因で太平洋高気圧の位置がズレたときに、猛暑で強化された梅雨前線や秋雨前線が日本付近にかかると大雨をもたらす場合があります。右の図は、ラニーニャ現象発生時における梅雨時期の降水量です。
図からもわかるように北日本、東日本、西日本の太平洋側では、ラニーニャ現象が発生すると梅雨時期の降水量は多くなる傾向にあります。台風に関しても、ラニーニャ現象が発生すると、平常時に比べて台風の発生位置が西〜北にずれる傾向にあります。日本に近い海域で台風が発生しやすくなるため、台風の影響を受けるリスクが高まります。
また、ラニーニャ現象が発生すると、太平洋高気圧に覆われて晴れていても、ゲリラ豪雨が発生して都市型水害のリスクが増えます。なぜなら、ゲリラ豪雨は地表と上空の気温差が大きいほど発生しやすいという特徴があり、ラニーニャ現象で地表付近の気温が高くなると、上空との気温差も大きくなるためです。もちろん、太平洋高気圧の位置によっては雨がまったく降らず、干ばつが発生する場合もあります。ラニーニャ現象が発生している場合は、極端な気象に注意しなければなりません。なお、ラニーニャ現象が発生すると冬も例年に比べて寒くなる傾向にあります。
■「ラニーニャ現象が発生した年と過去の大雨被害」について
ラニーニャ現象が発生した年にはどのような大雨被害が発生しているのか。下表は2017年~2023年の期間に発生したラニーニャ現象と主な大雨被害をまとめています。
2017年から2023年の期間にかけて、ラニーニャ現象は「2017年秋~2018年春」「2020年夏~2021年春」「2021年秋~2022/23年冬」の3回にわたって発生しています。ラニーニャ現象が発生したいずれの期間も前線や台風による大雨災害が発生しています。
ちなみに2022年(令和4年)は9月に台風14号と台風15号が立て続けに接近し、大きな被害をもたらしています。以下の表からも、2022年の9月は台風発生数が7個であるのに対して、台風接近数は6個で、発生した台風が高い確率で日本に接近しているのがわかります。台風の進路は風や気圧配置の影響も大きく受けますが、ラニーニャ現象によって日本に近い場所で台風が多く発生したことも、接近数が多くなった理由といえるでしょう。
■近年の気象傾向、今年の夏の気象傾向について解説
近年は地球温暖化の影響で気温の上昇が続いており、さらに今年の夏はラニーニャ現象の発生が予想されているため、記録的な暑さになる可能性があります。右の図は日本の夏(6月〜8月)の平均気温偏差です。
2020年以降はラニーニャ現象の発生も重なり、記録的な暑さが続いている状況です。また、過去2番目の暑さを記録している2010年もラニーニャ現象が発生しています。
ちなみに2023年は冷夏の原因となるエルニーニョ現象
が発生していましたが、記録的な暑さとなっています。これは、ラニーニャ現象が約3年にわたって続いたことで、太平洋赤道西部の海面温度が下がりきらなかったことが理由の一つです。気象庁も、今年の夏は地球温暖化の影響とラニーニャ現象により、全国的に平年より気温が高いと予想しています。一方、今年の夏の降水量は全国的に平年並みと見込まれています。ただし、平年並みといってもラニーニャ現象は極端な天気が特徴であり、雨の降り方も極端になる可能性があるため注意が必要です。
例えば、1ヵ月の平均的な降水量が400mmだったとします。同じ400mmでも、20mmの雨が1ヵ月(30日)のうち20日に分けて降れば災害になる可能性は低いです。しかし、400mmの雨が1日で降り、残りの29日が晴れる場合だと、雨が降った日は大災害になる可能性が高くなります。降水量が平均並みだからといって、大雨にならないわけではありません。ラニーニャ現象によって雨と晴れが極端になると、記録的な暑さに加えて、過去に経験のないような大雨災害が発生する可能性もあります。最新の気象情報をチェックし、ラニーニャ現象による異常気象に備えましょう。
【出典元】
気象庁「エルニーニョ/ラニーニャ現象とは」https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html
気象庁「ラニーニャ現象が日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム」https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino3.html
気象庁「エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間(季節単位)」https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html
気象庁「災害をもたらした気象事例(平成元年〜本年)」 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index_1989.html
一般社団法人日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果」 https://www.sonpo.or.jp/report/statistics/disaster/weather.html
気象庁「ラニーニャ現象発生時の日本の天候の特徴」https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/tenkou/nihon2.html
気象庁「よくある質問(エルニーニョ/ラニーニャ現象)https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/faq8.html
気象庁「台風の発生数[協定世界時基準](2023年までの確定値と2024年の速報値)」
https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/statistics/generation/generation.html
気象庁「全国への接近数(2023年までの確定値と2024年の速報値)」
https://www.data.jma.go.jp/yoho/typhoon/statistics/accession/accession.html
気象庁「日本の季節平均気温」https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html
気象庁「向こう3か月の天候の見通し全国 (07月~09月)」https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?term=P3M
解説:田頭 孝志
田頭気象予報士事務所 代表 気象予報士・防災士
愛媛県伊予市在住の気象予報士・防災士。防災記事の執筆・監修をはじめ、アウトドア雑誌に気象コラムの連載、テレビ番組の監修、BS釣り番組でお天気コーナーを担当。自治体、教育機関、企業向けに講演を多数。防災DX教材の開発や防災マニュアルの作成なども行う。地域の防災委員として地域防災にも尽力。
自然災害の増加により火災保険料が2024年度から値上げ予定、 加えて、水災リスクに応じて水災料率が5区分に細分化 |
2024年10月に火災保険料が改定されます。これは、自然災害による被害が全国各地で毎年のように多発しており、保険金の支払いが増加傾向にあるためです。火災保険料の基準となる参考純率の改定は、2014年以降最大となる全国平均で13.0%の引上げとなり、各社の火災保険料に順次反映される見込みです。
さらに参考純率の引上げだけではなく、契約者間の公平化を図る目的で、水災リスクに応じて5段階に料率が細分化されることになりました。水災リスクが最も低い「1等地」から最も高い「5等地」の5つに区分され、水災リスクが高いエリアにお住まいの方は火災保険料が値上げとなる可能性があります。
参考純率における⽔災リスクの細分化は“市区町村単位”で区分された水災等地となっていますが、ソニー損保では”丁目単位”のリスク細分を導入することで、より実態に沿った合理的な保険料の実現を目指します。
料率改定に先立って、損害保険料率算出機構のウェブサイト上で、お住まいの市区町村がどの水災等地に分類されるかを検索することができます。居住エリアの水災リスクを把握し、補償内容の見直しの参考にしてみてはいかがでしょうか。なお、水災等地の区分は永続的なものではなく、今後の自然災害の状況等に合わせて適宜見直しが行われる予定です。
・水災補償 /ソニー損保 新ネット火災保険の場合
台風や暴風雨などが原因で起こる洪水・高潮・土砂崩れなどにより、建物や家財に再調達価額*の30%以上の損害が生じたとき、または建物が床上浸水もしくは地盤面より45cmを超える浸水となった結果、損害が生じたときに、保険金を支払います。
*万一事故が起きた場合、実際にかかる修理・建て直しに必要な金額のこと
また火災保険では、補償対象を建物・家財の単位で選択します。水災の場合でも、範囲をどのように選択しているかによって被害に遭った際に補償される対象が異なってきます。