一般社団法人 日本損害保険協会のプレスリリース
マグニチュード7.9、死者は10万人以上とされ、日本の地震被害としては最大規模とされる関東大震災から、2023年9月1日(金)でちょうど100年を迎えます。
一般社団法人 日本損害保険協会(会長:新納 啓介)は、関東大震災から100年を契機に、地震保険加入者1,275名・非加入者1,259名、計2,534名を対象とした「地震保険に関する意識調査」を実施しました。
地震保険は単体では加入できず、火災保険とセットでの加入が必要となります。火災保険にセットして地震保険を契約している割合を地震保険付帯率といい、2022年度の地震保険付帯率を見てみると、全国平均が69.4%となっています。地域によって付帯率にはばらつきがあり、東京都の付帯率は全国平均を下回る61.9%で全国ワースト3です。一方で、東京都は、死者数約6千人、全壊・焼失棟数約10万棟以上が予想される都心南部直下地震など高い地震リスクが存在しています。震災への「備え」として重要な役割を果たす地震保険を、1人でも多くの方にご活用いただくためには、何が必要なのか、都市防災を専門とされる専修大学 ネットワーク情報学部 教授の佐藤 慶一氏とともに、地震保険の歩みを振り返りながら、調査結果を元に考えていきます。
主な調査結果
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①地震保険に加入していない方のうち、万が一被災し自宅が損壊する被害にあった場合の対応について、「特に考えていない」という回答が46.5%に
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②地震保険加入者の約7割が「被災後、保険金がすぐに支払われるのか」不安に思っていることが判明。
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③地震保険の使用用途は決められていないことについて、59.9%の方が知らなかったと回答。非加入者に限れば7割以上が知らないという結果に
①被災時の経済的な備え、地震保険の非加入者は「特に考えていない」が最多
関東エリアでは「預貯金で賄う」と考えている割合が高い傾向に。
地震保険非加入者に対して、被災した際の対応について尋ねたところ、「特に考えていない」という回答が全国平均で46.5%と最も高く、次いで「預貯金で賄う」が28.2%という結果になりました。
関東エリアでは、非加入者の地震保険に加入していない理由の傾向として、「地震保険の補償内容をよく理解していないから」が39.2%と全国平均(27.0%)に比べて非常に高い結果となりました。被災した際の対応については、「預貯金で賄う」と回答した方が39.2%と全国平均(28.2%)に比べて高い一方で、「特に考えていない」という回答が4割超と、多くの方が経済的な備えについて検討していない結果となりました。
Q1. (非加入者)現在、地震保険に加入していない理由として、当てはまるものを選んでください。(MA)
Q2. (非加入者)もし今日、あなたが被災し、自宅が損壊する被害にあったとき、地震保険による補償のない中で、どのように対応する想定でしょうか。
1923年の関東大震災以前にも、東京は数々の地震に襲われてきました。1703年の元禄地震はM7.9−8.2の海溝型の巨大地震で1万人以上が亡くなり、1707年の宝永地震(南海トラフ巨大地震)後には宝永富士山噴火で大量の火山灰等が南関東一帯を覆いました。1855年には、東京湾北部を震源とするM7の安政江戸地震により約7千人が亡くなっています。
2022年に公表された都の調査では、都心南部直下地震(M7.3)で、死者数約6千人、全半壊棟数約40万棟という大きな地震被害が予測されています。国は、メッシュごとに30年間で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を計算しており、例えば、東京丸の内で50%程度、経堂駅周辺で60%程度、錦糸町駅周辺で90%程度と非常に高い数値となっています。
2018年住宅・土地統計調査によると、東京都は、持ち家率が45%と低く(全国61.2%)、共同住宅が71%と多い(全国44%)傾向があります。地震保険付帯率は、全国ワースト3となっています。地震保険は、地震の揺れによる家屋の倒壊のみでなく、地震による火災や液状化、火山による損害などもカバーするものです。持ち家の方の再建や修理のみならず、賃貸の方でも、家財を買い直したり、新たに賃貸住宅を借りたりする場合、まとまったお金が必要になります。共同住宅では、専有部分に加えて、管理組合で共用部分の地震保険も検討が必要です。未加入の方は、ご自宅の災害リスクなどを調べ、保険加入のご検討をいただければと思います。
専修大学 ネットワーク情報学部 教授(都市防災)佐藤 慶一 氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で博士号取得後、東京工業大学都市地震工学センター研究員、東京大学社会科学研究所准教授等を経て現職。専門は、政策科学、都市防災等。2019年に東京都庁へ「首都直下地震時の仮設住宅不足への対応準備事業」を提案し採択される。2021-22年にかけてハーバード大学ライシャワー日本研究所に滞在し、現在、『災害対応と近現代史』を執筆中。
②「被災後、保険金がすぐに支払われるのか」という不安を抱えている人が約7割
今回の調査では、加入者の中でも「被災後、保険金がすぐに支払われるのか」という不安を抱えている人が70.3%に上ることがわかりました。
Q4. (加入者)地震保険に関し、あなたが不安に思うことはありますか。
東日本大震災に係る支払保険金は、約1兆3,241億円に達しますが、そのうちの約1兆円(約50万件)は震災後3か月間のうちに支払われています。損害保険業界が一丸となって対応したことが、迅速な保険金の支払いにつながりました。
地震による被害は甚大であり、民間の損害保険会社だけでは補償しきれないため、地震保険は国と損害保険会社が共同で運営しています。総支払限度額は、現在12兆円となっています。これは関東大震災クラスの地震と同等規模の巨大地震が発生した場合においても対応可能な範囲として決定されています。実際、過去の代表的な震災である阪神淡路大震災や東日本大震災でも保険金の支払額は総支払限度額内に収まっています。
■過去の地震保険による地震保険金支払額(支払額上位10位)
※1 日本地震再保険株式会社資料(2023年3月31日現在)より
※2 東日本大震災に係る支払保険金は、3.11東北地方太平洋沖地震、3.15静岡県東部を震源とする地震、
4.7宮城県沖を震源とする地震および4.11福島県浜通りを震源とする地震などを合計した約1兆3,241億円。
③「家の建て直し・修繕」だけに限られているわけではない地震保険の使い道。
地震保険の保険金は、使用用途が決められていないので、建物の修繕などはもちろんですが、当面の生活再建費用や引っ越し費用など自由に使うことが可能です。このことは意外と知られておらず、今回の調査でも59.9%の方が知らなかったと回答。非加入者に限れば7割以上が知らないという結果となりました。
今回の調査の対象者の中には、過去に自身が被災した際、地震保険の支払いを受けたことがある方が104人いらっしゃいました。その方々を対象に、支払いを受けた保険金を主にどのように使用したかを尋ねたところ、63.5%の方は「家の建て直し・修繕」の費用に充てていましたが、11.5%の方は「当面の生活費」として使用していたことがわかりました。受け取られた方の実に88.5%は「地震保険に加入していてよかった・助かった」と実感していることがわかりました。
なお、地震保険に関する設問では、「地震による火災は、火災保険の対象外であること」は49.8%が知らなかったと回答(非加入者では57.7%)しました。
Q5. 地震保険に関する以下の事実について、知っていましたか。
Q6. (過去に地震保険を受け取られた経験のある方)支払われた保険金は主に何に使用しましたか。
Q7. (過去に地震保険を受け取られた経験のある方)地震保険に加入していてよかった・助かったと感じましたか。
また、保険金の使用用途は決められていないことを「知らなかった」と回答した非加入者に対し、その事実を知った上で加入を検討したいと思ったかどうかを尋ねたところ、39.1%の方が「検討したいと思った」と回答する結果となり、他の項目と比較して最も高い結果となりました。
Q8. (Q4で各項目を知らなかったと回答した未加入者を対象)事実を知った上で、地震保険に加入を検討してもよいと思いますか。(検討希望者の割合が多かった上位5項目)
「災害大国・日本」における、震災100年の歴史と地震保険の歩み。
1964年の新潟地震をきっかけに創設、その後数々の大震災を経て制度改定を重ねてきた地震保険。
1923年の関東大震災以降、震度6または震度6弱以上を観測した地震は73回発生(関東大震災は除く)しています。
地震保険制度については、地震リスクがその発生頻度と規模を統計的に把握するのが難しいことや、一度発生すると異常・巨大な災害となる可能性があるという特異性のため、なかなか実現には至らない状況が続きました。
地震保険の制度創設の直接的なきっかけとなったのは、1964年6月に発生した新潟地震(マグニチュード7.5)です。新潟県を中心に山形県、秋田県など9県に被害が及んだこの震災では、住家被害が全壊1,960棟、半壊6,640棟、浸水15,297棟、一部破損67,825棟、住家以外の被害も16,283棟となりました。
この新潟地震を踏まえ、保険審議会の審議を経て1966年(昭和41年)に「地震保険に関する法律」が制定。地震保険制度は、この法律に基づく保険制度として創設されたものです。その後、50年以上に渡り、地震災害の経験を踏まえて制度改定を繰り返してきました。
<調査概要>
調査手法:オンラインアンケート
調査期間:2023年8月10日~14日
調査対象:全国の25歳~69歳 持ち家にお住まいの方2,534名
※全国8エリア(北海道/東北/関東/中部/近畿/中国/四国/九州・沖縄)