日本生産性本部のプレスリリース
2023年3月末決算企業の有価証券報告書「人的資本開示」状況(速報版) 「人的資本」の記載は2,000字未満が6割、女性管理職比率は5%未満が半数
(公財)日本生産性本部(東京都千代田区、理事長:前田和敬)は、8月2日、「人的資本経営の測定・開示ワーキンググループ(WG)」にて取りまとめた2023年3月末決算の東証プライム上場企業の「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版)を公表しました。
人材を「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す経営(人的資本経営)が注目されるなか、内閣府令により、2023年3月末以後の事業年度にかかる有価証券報告書から、サステナビリティ関連項目として人的資本(「人材育成方針」「社内環境整備方針」)および多様性(「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」)の情報開示が義務付けられました。
本WGではこれを受けて、有価証券報告書への記載状況を独自に調査・集計し、企業の取り組み状況に関するヒアリングや米国の人的資本経営の研究を進める予定です。今回は、2023年3月末決算の東証プライム企業(集計社数1,225社:6月30日時点で開示があった企業)について、提出された有価証券報告書から人的資本・多様性に関する記載内容を集計し、速報版として公表しました。主な特徴は以下の通りです。
【主な特徴】
1.人的資本・多様性に関する記載の傾向:2,000字未満が約6割、記載分量にバラつき(別紙P.10~11)
・有価証券報告書における人的資本に関する記述の文字数は、1,000~1,499字が19.9%と最多。続いて、500~999字が19.0%、1,500~1,999字が15.6%と2,000字未満が全体の約6割を占める。全体平均は2,095字(グラフ16)。
・記述における頻出語(出現回数)をみると、「人材」が9,455回と最多であり、「育成」(6,958回)、「環境」(6,366回)と続く。「女性」(4位、5,897回)、「健康」(9位、3,967回)、「多様」(17位、3,324回)、「多様性」(31位、2,300回)などのほか、「経営」(6位、5,424回)「戦略」(18位、3,222回)などの語の記載も多く、多様性、健康経営、戦略とのつながりが感じられる頻出語もみられた(図表4)。
(「サステナビリティに関する考え方及び取組」の分析)(n=1,225))
2.女性管理職比率:5%未満が全企業の48.2%、15%未満が84.1%(別紙P.4~5、P.12~13)
・女性管理職比率が5%未満の企業は全体の48.2%、15%未満が84.1%を占める(グラフ7, 8)。
・業種別では、サービス業、金融・保険・不動産業、情報通信業の順で高く、鉱業・建設業、電気・ガス業が低い(グラフ9)。
・人的資本に関する記載量の多少と、女性管理職比率の業種平均に対する高低により、相関関係を確認したところ、人的資本の記載量が多い企業で、必ずしも女性管理職比率が高いとは限らなかった(図表5)。
(n=1,064。単体について記載のなかった161社を除く)
3.男女間賃金格差:男性100に対して女性の賃金は70.8。70~75の企業が最多(別紙P.8~9)
・男女間賃金格差は、男性を100とすると女性は70.8(全体平均)、70~75の企業が251社(23.2%)を占め、最多であった(グラフ13, 14)。
・業種別の賃金格差は、情報通信業が75.4でもっとも小さく、サービス業、製造業と続く。一方、鉱業・建設業、金融・保険・不動産業がいずれも64.7ともっとも格差が大きい(グラフ15)。
(n=1,083。単体について記載のなかった142社を除く)
【添付資料】
別紙:2023年3月末決算東証プライム企業「有価証券報告書における人的資本開示状況」(速報版)概要
【日本生産性本部「人的資本経営の測定・開示ワーキンググループ」について】
人的資本経営の測定・開示のあるべき姿と人的資本指標の具体的な活用を討究・発信することを目的に、2023年4月に設置。学識者と企業実務家(東証プライム企業の人事部門)で構成され、一守靖 事業創造大学院大学教授が座長を務める。本調査・集計は、ワーキンググループ学識者メンバーの一守靖 事業創造大学院大学教授と浅野浩美 事業創造大学院大学教授監修のもと、実施した。今後、企業の取り組み状況のヒアリングやアンケート調査のほか、米国の人的資本経営の研究などを進め、人的資本の測定と開示が企業経営に与える影響について、報告書を取りまとめる予定。
調査結果の詳細は、日本生産性本部の調査研究・提言活動サイトをご参照ください。